新潟の気候風土を映す個性豊かなワイナリーが集う「新潟県ワイナリー協会」加盟社によるリレーコラム。今月は、新潟市西蒲区越前浜のワイナリー「フェルミエ」の代表で、栽培・醸造家の本多孝さんが、海と砂のテロワールへの思いと、フェルミエのワイン造りについて紹介します。
フェルミエは、新潟市西蒲区越前浜にある家族経営の小さな農園ワイナリーです。
2006年、「自身が生まれ育った新潟の自然の個性が素直に現れるワインを造りたい」という思いから、この地で歩み始めました。「フェルミエ」とは、フランス語で「農家製の」という意味です。自ら畑に立ち、ぶどうを育て、その年、その土地で育まれたぶどうから自分たちの手でワインを醸す。その原点を名前に込めています。
私たちが目指すのは、単に香りや味わいが整ったワインではありません。新潟の自然が持つ生命力を宿し、飲み手が口にした時にエネルギーを感じ、楽しく元気になるようなワインです。そのために、自然を人の都合に合わせようとするのではなく、畑やぶどうの声をよく聞き、この地の自然の個性を尊重し、自然のエネルギーを享受することを大切にしています。
海底火山の記憶と、海岸砂丘がもたらすもの
ワイナリーの周囲には角田山と日本海、そして海岸砂丘が広がっています。角田山は、今から約1,300万年前〜800万年前に海底火山として活動していました。この一帯では、火山由来の火成岩の岩盤の上に地層が重なり、信濃川から海に放流され、海から運ばれた砂が表土を覆っています。川、海、火山、砂。それぞれが長い時間をかけて重なった土地で、私たちのぶどうは育ちます。ワインにもたらされるエネルギー、それはまさにその土地に存在する自然の力そのものと考えます。この土地には自然のエネルギーがあふれているのです。
砂質土壌は水はけがよく、ぶどうの根は水分や養分を求めて地中へ伸びていきます。海からの風は畑を通り抜け、日本海に沈む夕陽がぶどうを照らします。そこから生まれるワインには、透明感のある香り、まさに砂に雨水が浸透していく時のような静謐で永く上品な余韻、繊細で優しい口当たり、白ワインには海を思わせる塩味やミネラル感、赤ワインにはきめ細かでシルキーなタンニンが現れます。
畑では除草剤や化学肥料に頼らず、一部の区画では有機栽培にも取り組んでいます。ただし、特定の農法を掲げること自体を目的にはしていません。大切なのは、ぶどうをよく観察し、必要な手を必要な時に適切にかけること。醸造でも野生酵母による発酵や手仕事を取り入れながら、過度に飾ったり造り込んだりせず、この土地と品種の個性が素直に現れるように努めています。
フェルミエを象徴する品種が、スペイン北西部やポルトガル北部を故郷とする白ぶどうアルバリーニョです。
原産地も海に近く雨が多いことから、新潟の気候との共通点も感じ、創業当初から可能性を信じて栽培してきました。今では世界的にも大変注目されている品種です。
アルバリーニョは、柑橘や白い花、熟した果実を思わせる香りと、伸びやかな酸、豊かなミネラル感を備えています。魚介類との相性がよく、「海のワイン」とも呼ばれます。日本海の魚、すし、天ぷらなど、新潟の食文化に自然に寄り添う品種です。
同じアルバリーニョでも、畑の区画、仕立て方、酵母や醸造方法の違いなどによってワインの表情は変わります。
信濃川流域の沖積土壌のフレッシュで親しみやすい「アルバリーニョ」から、塩味や引き締まったミネラル感が特徴の「エル マール アルバリーニョ」、火山のエネルギーを意識し野生酵母で発酵させた「エル ヴォルカン アルバリーニョ」、アロマティックな特徴がよく現れる「エル マール アロマティカ アルバリーニョ」と4つの畑の区画毎に、アルバリーニョのワインを造り分けています。
このように局地的な気候の個性を表現するなど、さまざまなスタイルに挑戦しています。この土地の個性を表現することに秀でた一つの品種を深く掘り下げることで、新潟のアルバリーニョが世界にも通じる個性を持つことを示していきたいと思っています。
特別な日のファインワインも、日々に寄り添うワインも
私たちは、畑や品種の個性を研ぎ澄まし、自社栽培ぶどうから醸す“ドメーヌワイン”の領域ではファインワイン造りに力を注いでいます。アルバリーニョに加え、砂の畑で育つピノ・ノワールやカベルネ・フランなどにも取り組み、ワインにこの土地の個性を写し出し、自然のエネルギーを取り込むことに心血を注いでいます。
一方で、ワインは特別な知識を持つ人だけのものでも特別な時にだけ飲むものでもありません。新潟市内の契約栽培ぶどうを中心に、日々の食卓で気軽に楽しめるカジュアルなワインも造っています。特別な日にゆっくり向き合う一本も、家族や友人と食卓を囲む一本も、役割は違っても、目指すところは同じです。新潟の自然と食、人と人をつなぎ、飲む時間を豊かにすることです。
畑から食事まで、ワインの物語を体験する
フェルミエでは、ワイナリーツアーを通して、ぶどう畑、醸造所、そしてワインができるまでをご案内しています。畑に立って海からの風を感じ、砂に触れた後にワインを味わうと、グラスの中の香りや塩味が、それまでとは違って感じられるはずです。
併設するレストランでは、新潟の海や山、里から届く食材を生かした料理と、自社ワインのペアリングを提案しています。料理とワインが出会うことで、それぞれを単独で味わう以上の新しいおいしさが生まれます。土地で育ったものを、その土地の風景の中で味わうことは、テロワールを五感で知る体験でもあります。
新潟には、海、山、川、雪、砂丘、豊かな食材、そして四季があります。ワイン産地としての歴史はまだ若いかもしれません。しかし、若いからこそ、まだ見つかっていない可能性があります。私たちはこれからも自然に学び、新潟の個性とエネルギーにあふれたワインを造り続けます。一杯のワインが、飲む人を笑顔にし、明日への元気につながることを願って。
【プロフィール】
Honda Vineyards and Winery株式会社(フェルミエ)
代表取締役・栽培醸造家 本多 孝さん
1967年、新潟市生まれ。大学卒業後、金融機関勤務を経て、故郷・新潟でワイン造りを志す。カーブドッチのワイナリー経営塾で学び、2006年に新潟市西蒲区越前浜でフェルミエを創業。海、火山、砂のテロワールを映すアルバリーニョを中心に、新潟の自然の個性と生命力を表現するワイン造りに取り組んでいる。
ワイナリー&レストラン フェルミエ
住所|新潟県新潟市西蒲区越前浜4501番地
電話|0256-70-2646
レストラン営業時間|11:00~16:00(コースLO 14:00、アラカルトLO 15:30)
定休日|火曜日、不定休
ワイナリーツアー|要予約(開催日時は公式サイトで確認)
レストラン|予約推奨
HP|https://fermier.jp/









