今日も明日も、もっと輝く assh-アッシュ-

多様な価値観でこれからを楽しむ おとな女性へ贈るウェブマガジン assh-アッシュ-

2024.05.05 special

料亭「遊亀楼 魚兵」 今井久美子さん /故郷に愛着「ものづくりのまち」の魅力発信

シリーズ

assh表紙の人

エリア

下越/佐渡

創業156年 祖母に乞われ女将の道に

JR東三条駅からほど近い、新潟県三条市の中心市街地。古い町並みが残る小路を行くと、白いのれんに描かれた力強い亀が出迎えてくれた。料亭らしく落ち着いたたたずまいの店構えに対し、1階は白と木目を基調に、開放感のある現代的な空間が広がる。階段を上がると、明治期の趣が香るレトロモダンな雰囲気が残る。

遊亀楼魚兵は1868(明治元)年、現在の三条市で創業。信濃川と五十嵐川の合流点に位置し、江戸期には水運の拠点として栄えた三条地域。店は五十嵐川のほとりで、舟で行き交う人々をもてなす茶店として始まった。

女将の今井久美子さんは6代目店主の長女として生まれ、三条市で育った。「両親からは好きなことをしなさい、と。店について何か言われることもなく、自由気ままにやってきた」とにこやかに話す。専門学校に進み調理師免許は取得したものの、家業に入るつもりはなく塾講師に。

女将になったのは、出産を経て仕事復帰を考えた32歳のとき。夜遅くまで、土日も仕事をする両親を見て育ち、当初は子どもと過ごすことを優先しようと平日の日勤の仕事を探した。だが調理師免許を生かして就職を決めたとき、「同じ飲食業に就くのなら」と祖母に乞われ、平日の昼間のみの条件で家業に。「でも、いざやってみると、昼間だけでは掃除と皿洗いくらいしかやることがなく、これでは物足りないと思った」と振り返る。

そんなとき、地元企業からケータリングの仕事が舞い込んだことが転機となった。従来の仕出しと異なり、料理を提供するほかに会場のテーブルセッティングを担い、空間そのものをしつらえるサービス。「やったことはなかったけれど、できますと答えていた」。情報が充実している海外のサイトなどを参考に、夢中で取り組んだ。

燕三条地域はものづくりのまち。ニットを製造する企業であれば製品の切れ端をランチョンマットにしたり、会場が工場であれば金属の廃材で空間を彩ったりと、その企業の特色を出してテーブルを彩る。料亭で育ち、幼少期からさまざまな器や食膳を見てきた経験を基に、依頼に応えながら貪欲に学び、フードディレクターとして仕事の幅を広げてきた。

店舗一部をショップ・カフェにリニューアル

「温故知新」が店の信条。昨年5月には店内の一部を改装し、営業形態をリニューアルした。料亭とは別に、予約不要で気軽に来店できるカフェの営業を始めた。

カフェには燕三条地域で作られた製品を扱うショップも併設し、熱伝導率の高い銅製のマグカップや口当たりにこだわったスプーンなど、約10社の商品がそろう。「もともと料亭は多くの人が集まる、流行の発信地だった。現代でも、いい物を広めて、燕三条地域を再発見できる場にしたい」と力を込める。

ほかにも、地元呉服店と協力した着物の着付け教室やワークショップなど、地域に根差した活動は多岐にわたる。

店は今年で創業156年。「『郷土愛の醸成』の社訓の下、地域のためになるのかどうかを基準にやってきた。ここからまた100年、この地で続けていきたい」と表情を引き締めた。


今井久美子さん
【プロフィール】
いまい・くみこ 1980年、新潟県三条市出身。家業の料亭「遊亀楼 魚兵」で女将を務める傍ら、県内ホテルのホームページの料理写真を手掛けるなど、フードディレクターとしても活動。

遊亀楼 魚兵 https://uohyo.com/