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2025.08.11 special

音楽とともに東へ西へ 旅先で見つめ直す日本の文化

シリーズ

TOKUのMUSIC LIFE

皆さま、お元気ですか??
TOKUの5回めの「assh」コラムにようこそ。

今回は帰国のタイミングで原稿を書いています。
7月末に涼しいパリから蒸し暑い日本に帰国し、旧友でもある素晴らしいギタリストの小沼ようすけくんとツアー中です。
彼は日本にいる間は1番共演回数が多いミュージシャン仲間のひとり。出会って27年になる彼と2人で旅をするのは、
僕にとってかけがえのない時間です。一緒に音を出すのはもちろんのこと、移動中にいろんな話をしたり、ご飯を食べたりするのも楽しい時間です。同じ世代のミュージシャン同士、見てきたものや経験してきたことが似ていて物事を同じように感じているなと思うことが多い、そして人間として信頼できる友人。
彼と一緒に音を出すことは自由になれる時間であり、人生を考える時間であり、最高の喜びであり、、
こういう仲間に人生の中で出会えるというのは本当に幸運なことです。 

名古屋のジャズ・クラブ「Jazz Inn Lovely」で終演後、小沼ようすけくんと

さて、ツアーといえば旅です。
僕らジャズ・ミュージシャンは年中ツアーしてます。初回にも少し書いたと思いますが、いわゆるポップスのミュージシャンとは違い、主な活動はライヴです。なので季節に関係なく演奏する機会があれば基本的にどこへでも行き演奏します。飛行機に乗り、それから車でしばらく移動して現場に着いたらすぐにリハーサル、少し休んで本番なんてこともよくあります。もちろん電車にもたくさん乗ります。

デビューして有難いことにツアーが多くなり、ある日ふと思ったのは、「そうか、ミュージシャンというのは肉体労働以外のなにものでもないんだなあ。」ということ。体力がなければミュージシャンはやってられないことを強く感じました。でも若い頃は(今でも若いつもりですが) 少しくらい寝なくても次の日の演奏に響くことなんてありませんでした。自分のライヴが終わると毎夜遅くまで食べたりセッションしたり。。
そして次の日の移動中はほとんど寝て過ごし、現場に着くとエネルギーチャージは完了していてまたそこからは日々と同じく、、なんてことをしていても大丈夫だったなんて、若いって素晴らしいですね(笑)。

さすがに今は、心は若くても身体は若くないということを受け入れています。なのでツアー中は日々のメンテナンスをしっかりやります。できるだけその日の疲れを取り早めに就寝するために、やる事をできるだけ早くやります。風呂に入りストレッチをして身体をリラックスさせ、時差ボケでもできるだけよく寝られるように努力したり、、でも仲間と話が弾んで遅くなっちゃうこともあるんですけどねえ。。

そんな時はその時だけの時間なので楽しんでしまいますね、それもまた大切。そこから音楽的なアイデアが生まれたりするんです。ほんとミュージシャンは楽しいことに貪欲です。

移動中の一コマ

以前にヨーロッパでのツアーで朝6時にホテルを出発して飛行機を2本乗り継いでその日のジャズ・フェスティバルの現場に到着しすぐにリハーサル、僅かな時間の間に腹ごしらえをしてすぐに本番にのぞむなんてこともありました。さすがにちょっとキツかったなあ。

現場もさまざまです。いわゆるジャズ・クラブからフェスティバルのような大きなイベント、レストラン、カフェ、ホテルのバーなど。少し変わったところですとお寺、神社、歌舞伎小屋、歴史資料館、重要文化財などなど。個人的な繋がりから生まれるライヴもあったりします。大きな広いヨーロッパの個人宅や、なんとお寿司屋さんでライヴをやったこともあります(笑)。

今は少なくなりましたが、前は日本全国にツアーを組んでミュージシャンをクルマに乗せて旅をサポートしてくれるプロモーターの方がたくさんいました。そういう方々はその地域の名所や食べ物屋さんをよく知っているので、打ち上げで名店に連れて行ってくれたりします。そうするとツアーにまたひとつ大きな楽しみを追加してくれるんです。

また、その時によって共演するミュージシャンも違います。新しいアルバムを発売した後のお披露目的なツアーでは実際にアルバムに参加してくれたミュージシャンとツアーしたり、また前から共演の話をしていたミュージシャン達とスケジュールを調整し合いツアーを組むということも。そのツアーを組む過程も楽しいのです。楽しみなことを企てるのはいつも楽しいですよね。

そして、行く先々で出会う人や食べ物、その土地の空気や歴史に触れられることもまたツアーの醍醐味です。その土地から次の場所へ、前の晩に食べたものや出会った人の話なんかをしながら、そして季節を映し出す風景を楽しみながら移動します。

日本には本当に美しい所がたくさんあります。
県境の山越え中などに見る緑の優しさ、水の綺麗な上流の流れ、澄んだ空気の匂い、五感を刺激されながらの旅もその日の演奏に生かされたりします。まだまだ見たことのない日本の景色を見てみたいと強い思いに駆られながら、この国の未来を考えたりします。

今回のツアーで訪れた飛騨高山

最近はヨーロッパでの旅も増えてきたので、僕の大好きな「食べる」ということを存分に堪能します(笑)。美味しいものは世界中にあるので、それを楽しめるのは本当に幸せです。フランスも美味しいですが、イタリアは本当にどこに行っても美味しいんです。そしてイタリアに行く度にまだ行ったことのない地域に行ってみたいという気持ちが膨らんでしまうんです。食べることが好きでよかった、なんて自分で思ったりします(笑)。

去年の12月に、イタリア寄りのスイスのAscona(アスコナ)という街に演奏しに行く機会がありました。飛行機でミラノに近い空港に降り、そこからクルマで1時間ほど行くとこの美しい街に着きます。Maggiore(マッジョーレ)という湖のほとりにあるこの街はイタリアに近いこともあり、スイスだけど人々はイタリア語を話します。そしてそこに住む人たちの顔はイタリア人寄り、おもしろいですよね。国同士が陸続きの、いろんなことが混じり合う、ヨーロッパらしい光景を目にすることができます。 

スイス Ascona の街の風景

そしてやっぱり料理が本当に美味しかった!
ヨーロッパでは本番前にしっかりとご飯を食べる時間が必ず設けられています。日本のようにどこの街にもコンビニがある、なんてことはないので食べるタイミングを逃すと次の日まで待たなきゃいけないなんてことになります。また食事はライヴの契約に含まれていることもしばしば、食を大切にするヨーロッパらしいエピソードです。

スイス Ascona の夜景

さて、そのAsconaでのライヴ前の食事ですが、メンバー全員でコース料理をいただきました。
さながら打ち上げのような(笑)ディナーの時間を堪能し、コースだったので時間もかかりデザートとコーヒーのタイミングでお腹いっぱいの状態でステージの本番の時間が迫ってきます。でも美味しいものを食べて幸せな気持ちのままステージで気持ちよく演奏するのもまた楽しいんです。演奏はどうなることかと思えどそこは一流のミュージシャン達、ステージ上では燃えます。最高のプレイを披露する共演者たちが頼もしく、世界はすごいなあと刺激をもらったりすると本当に幸せだなと感じます。

スイス Ascona でのライヴ終演直後、メンバーと

当たり前ですが、世界には本当に様々な人がいます。もちろん海外には日本人とは違う価値観を持ってる人ばかりなので、話してみるといろんな刺激を受けたりします。考え方は本当に様々、そして自分の中の常識がいかに儚いものなのかもよくわかるのです。

日本に興味を持っている人はヨーロッパにはたくさんいます。なので日本のことについてよく質問されますが、自分の国のことをまだまだ知らないなあなんて思わされることもあります。
とにかくアニメや漫画はヨーロッパでとても人気があります。漫画喫茶もあるくらいです。サムライという言葉も知ってる人がいたりします。
ライヴ終演後にCDを購入してくれた方にサインをすると、よく「Arigato!」と返してくれたりします。自分が思ってるより日本のことは知られているんだなあと強く感じる瞬間です。
だから日本に行ってみたいという人はたくさん、そしてすでに訪れたことのある人にもたくさん出会います。好奇心旺盛なヨーロッパの皆さんが口を揃えて言うのは、日本は特別なところだということ。海に囲まれたこの国の、古き日本の持つ独特な文化や伝統、日本人としての生き様などを感覚的に受け取るのではないかなあと思います。

海外にいるからこそ、日本のことがより見えてくるということはよくあります。もちろんどこにも同じように政府があり、システムがあることもわかります。その点で言えば、良いか悪いかは別として世界は今ひとつの方向に向かっているなあと強く感じます。
ですが、日本人であるからこそわかるということもありますが、他の世界とは違う、日本にしかないものもあるんだということもまた強く感じるのです。

というわけで、今回はツアーということについていろいろと書いてみました!
お楽しみいただけましたでしょうか。
また次回もお楽しみに!

TOKU