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2026.02.01 special

里山十帖 シェフ 桑木野恵子さん/土地の恵み 自然の摂理に沿い表現 野生目覚める一皿に

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エリア

中越

希望かなわずオーストラリアへ 思いがけず開けた料理への道

山あいの細道を分け入った先、南魚沼市の懐深くにたたずむ大沢山温泉。周囲を山々に抱かれた別世界のようなその場所に、宿泊施設「里山十帖」がある。

雪に覆われる冬は雪室野菜にジビエ、伝統的な保存食。緑芽吹く春は多彩な山菜。シェフの桑木野恵子さん(45)が手がける、土地の風土や文化を表現した料理は、「ミシュランガイド」一つ星に輝くなど国内外で高い評価を受ける。


埼玉県出身の桑木野さんは、大学卒業後、都内のエステサロンに勤務。4年ほど勤めた後、さらに知識を深めるためフランス行きを計画したものの、就労ビザが下りることはなく、不本意にもオーストラリアに行くことに。「当時は英語も話せなかったし、嫌々ながらという感じ。長くいるつもりもなかった」と振り返る。

ところがオーストラリアで、価値観が転換する出会いがあった。健康意識の高い当地でインド・スリランカ発祥の伝統医療「アーユルヴェーダ」やヨガに触れ、その延長で食にも関心を持つように。「かつてはダイエットコーラでおなかを満たすような日々。自分の体をつくる食の大切さに気付かされた」

その後、ヨガ指導者になるためにインドに渡り、自然医療「ホメオパシー」が身近なドイツでも暮らすなど、海外暮らしは7年に及んだ。食への関心も持ち続け、インドやヨーロッパで現地の家庭を訪ねて地元の料理を習うことも。「『実際に見て納得したい』という思いは常にあった。今だったら怖くてできないけど、その時だからできた経験は、今の料理につながっているかな」とにこやかに話す。


地元の人々の教え受け毎日山へ 植物の一生見つめる

里山十帖を知ったのは、都内のヴィーガンレストランに勤めていた34歳の頃。図書館でたまたま手に取った雑誌「自遊人」で、当時開業準備を進めていた施設の理念に共感し、「インドに行くような気持ちで」2014年1月、南魚沼市を訪れた。

山の師匠ともいえる地元の人々と交流し、植物が芽吹き、朽ちるまでを見つめるなど雪国の文化を学び、自然の摂理に従う生き方に触れる。2018年に料理長就任後は「人間が持つ『野生』が目覚める料理」を目指し、発酵や保存食文化を生かした雪国ならではの一皿を作る。「都会にいては気付けない、あらがえないものがあることをここでは実感する。『目覚める』と言うとおこがましいけれど、どこかに残っている人間の野生的感覚に触れる料理でありたいと常に思っている」と力を込める。


今後は、海外との架け橋になる活動や、毎日山に入るうちに懸念を抱くようになった自然環境問題にも取り組みたい。だが、「目標はあまり持たないようにしている」と語る。

それは、現在歩む料理人としての道のりが、フランス行きがかなわなかったのを機に始まったことから。「自分の思いだけを貫き通していたら、今の自分はなかった。やることをきちんとやっていれば、自然とドアは開けてくる。そこに勇気を持って飛び込めるように、常に準備をしていればいいかなと思っています」とほほえんだ。


桑木野恵子さん
【プロフィール】
くわきの・けいこ 埼玉県出身。都内エステサロン勤務の後、7年の海外暮らしで各国のベジタリアン料理を学ぶ。2014年、里山十帖に入職し、2018年に料理長就任。2020年「ミシュランガイド新潟2020」一つ星、2022年「ゴ・エ・ミヨ2022」テロワール賞など受賞多数。