新潟の気候風土を映す個性豊かな10のワイナリーが集う「新潟県ワイナリー協会」加盟社によるリレーコラム。今月は株式会社カーブドッチ(新潟市西蒲区)のワイン製造責任者で取締役の掛川史人さんが、ワイン造りへの思いとその魅力を紹介します。
角田山麓を開拓 一から始めたワイン造り
カーブドッチが角田山の麓に広がる砂丘地帯にぶどうの苗を植えたのは、1992年のことでした。当時、この一帯にはワイン用のぶどう畑はまったくありませんでした。それでも、水はけのよい砂質土壌や日本海からの潮風、梅雨が比較的短く日照に恵まれる気候――こうした条件を丁寧に観察していくうちに、「この土地であれば良質なワイン用ぶどうが育つのではないか」と考えました。そして何もなかった砂地に鍬を入れ、自社畑を一から切り拓くところから、私たちのワイン造りは始まりました。
私たちは創業時から「滞在」を楽しんでいただきたいという思いを大切にしてきました。ワイン製造所しかなかったワイナリーに、レストラン、ショップ、ベーカリー、温泉、宿泊施設をオープンしていきました。なぜ滞在にこだわるのかというと、それが豊かだと思うからです。そして一緒にいる時間が長いほど、ワインへの愛が深まるからです。
新潟を訪れてもらうために、米カリフォルニアのナパバレーのように、複数のワイナリーが集まる場所にしたいという構想もありました。そしてワイン造りを学び開業までをアシストする「ワイナリー経営塾」を始め、志を同じくする若い造り手たちが少しずつ集まりました。フェルミエ、ハッコーショオ、カンティーナ・ジーオセット、ルサンクワイナリーといったワイナリーが次々と誕生し、今では「新潟ワインコースト」と呼ばれる小さな産地を形づくっています。一軒のワイナリーから始まった挑戦が、仲間を得て、産地へと育っていく。新潟の海辺にワイン文化が根づいていく過程そのものが、カーブドッチの歩みと重なっています。
ワイナリーにとって最も重要なことは、「土地にあったぶどう品種」を見つけることです。私たちも適正品種を求めて40を超す品種に挑戦してきました。土地と品種が真に合ったときに、ほかの地では出しえない素晴らしい味わいを生みだします。私たちにとって、それが「アルバリーニョ」でした。
アルバリーニョは、主にイベリア半島で栽培されている白ブドウ品種です。アロマティックで華やかな香り、品種由来の酸味、そして口に含んだ瞬間のタッチの軽やかさ。それでいて薄さを感じさせない緻密な味わいを感じとることができる。こんなにも素晴らしいワインを生み出す土壌ですが、以前はこの特異な砂質土壌の良さが分からず、「なぜこの土地でワイン造り?」と強い疑問を抱いていました。しかし砂質土壌は香りを華やかにする。それをアルバリーニョが私たちに教えてくれたのです。
現在では自社農園の中で最大面積を占めるまでになり、多くの方に新潟のアルバリーニョを味わっていただけるようになりました。未知の品種に挑んでから、気がつけば20年の月日が流れていました。今や名実ともにカーブドッチを代表する品種になっています。
3つのシリーズで描く、カーブドッチの世界
カーブドッチのワインは、大きく3つのシリーズがあり、気分や食卓の場面に合わせて選んでいただけます。
「セパージュシリーズ」は、アルバリーニョをはじめ、ピノ・ノワール、シャルドネ、メルローなど、品種ごとの個性を真正面から表現する本格派のラインです。自社畑のテロワールを最も素直に映し出す、カーブドッチの軸となる存在です。特別な日の一本や、ワインそのものとじっくり向き合いたい夜に、ぜひ手に取っていただきたいシリーズです。
「どうぶつシリーズ」は、醸造家 掛川史人が自由に造ってみたいワインを造る、趣味のワイン。品種の個性に縛られることなく、自由な発想でぶどうたちと向き合い造り上げます。ラベルに愛らしい動物たちが描かれた、親しみやすい一本で、会話のきっかけにもなってくれるはずです。
「ファンピーシリーズ」は、“Fun wine make you happy!!”を合言葉に、食用ぶどうで造るポップでキュートなワイン。果実味が豊かで飲みやすく、ワインに親しみはじめた方の最初の一本としてもおすすめしやすいシリーズです。
このシリーズを音楽に例えることがあります。
「セパージュシリーズ」は、年月を経ても変わることがなく、追求し続けるもの。さながら完成された楽譜を追求し続けるクラシック音楽です。「どうぶつシリーズ」は、楽譜そのものよりも、プレイヤーによって大きく印象が変わるジャズ。「ファンピーシリーズ」は、耳馴染みが良いJ -POPのように、気軽にガブガブと飲んで欲しいワインです。
ご紹介した3シリーズのほかに、若手スタッフによる小ロット仕込みワインをリリースすることもあります。ひと樽、数百本規模という小さな仕込みの中で、若い醸造スタッフが自らの発想で醸造方針を組み立てます。時には定番の枠をあえて外れた、実験的な一本が生まれることも。商品名やラベルのデザインまで自分たちで考えます。そうしたひとつひとつの試みが、造り手の感性を磨き、次の世代の味わいを育てていくのだと信じています。
もちろん、すべてが成功するわけではありません。思い描いた通りにいかないこともあれば、逆に予想を超えた一本が生まれることもあります。しかし、その揺らぎそのものが、ワイナリーの未来を形づくる大切な土壌になっていくのだと考えています。
ワイン造りには絶対的な正解がありません。だからこそ、失敗を恐れずに自らのアイデアを形にできる環境を整えることが重要です。砂地と向き合い、品種と向き合い、そして次の世代と向き合いながら、ここでしか生まれない一本を追い続けたい。それが、カーブドッチの変わらぬ姿勢です。
カーブドッチの最大の特徴は「滞在するワイナリー」であることです。敷地内には、ぶどう畑を一望できるレストラン、焼きたてのパンが並ぶベーカリー、ゆったりとくつろげる温泉とスパ、そしてオーベルジュなどが点在しています。グラスを傾け、ぶどう畑を歩き、湯に浸かり、美味しい食事を楽しむ。そんな贅沢な時間が流れています。
「ワイナリーだからワインを飲まなきゃ」と構える必要はありません。温泉に入りにきたら、そこに素敵な景色とワインがある。そんな、ワインが日常に溶け込む心地よさを感じていただきたいです。
春には、畑の芽吹きとともに新しい季節の訪れを感じます。夏には青々と茂る葉陰で、秋には収穫を迎えた熟したぶどうの香りに包まれながら、冬には雪化粧をまとった畑を眺めながら――季節ごとに異なる表情を見せる角田浜で、新潟ワインの「今」をぜひ体感していただければ幸いです。
【プロフィール】
株式会社カーブドッチ
ワイン製造責任者・取締役 掛川史人さん
神奈川県生まれ。高校卒業後、フランス・ブルゴーニュに渡り約4年間ワイン造りを学ぶ。帰国後、カーブドッチに入社。2006年に醸造責任者、2010年より取締役を務める。セパージュシリーズ、どうぶつシリーズ、ファンピーシリーズと、幅広い飲み手に寄り添うワイン造りを手がける一方、若手スタッフとともに小ロット仕込みにも積極的に取り組み、カーブドッチの次なる味わいを探求し続けている。
株式会社カーブドッチ
住所|新潟県新潟市西蒲区角田浜1661
電話|0256-77-2288
営業時間|10:00~17:00(施設により異なる)
ワイナリー見学|11:00~ 要予約
HP|https://www.docci.com/











