「新年を迎える器、漆器のススメ」
一年のはじまりは、今年こそ季節を先回りして、心や時間に余裕を持って迎え、旬や手しごとを存分に愉しもうなどと、心を昂らせながら考えているのに、いつの間にか季節に追い越され、旬のピークが過ぎたころにハッとして、すっかり置いていかれたような気持ちを繰り返すのは私だけでないと思いたい。早いもので年の瀬も目前、もっとも慌ただしく過ぎていく師走に、今さら「余裕を持って」というのは無理があるが、新年を迎える準備を少しずつしておきたいところ。
私が迎春の器づかいとしてオススメしたいのは断然、漆器だ。
日常で漆器を使うことに対して、ハードルが高いと感じる方も多いようだが、気をつけるべきは紫外線と乾燥くらいなもので、気負わずに使える素材なのである。
必要な技術、工程や時間を考えれば高価なのは当然で、漆の持つ素晴らしい特性を知ればその価値もわかる。防水性に優れ、防腐や防虫、抗菌など素晴らしい機能性を持った自然界最強の素材であり、安心で安全で、かつ直しも利くことから、一度手に入れれば一生もの。
小さい頃の記憶では、母が数日かけて作り上げたおせちは、元旦の朝、漆の二段重に詰められていたような気がするが、「子どもがおせち食べない問題」に我が家も例に漏れず、母は作る量を調節するようになり、それでも偏って余ることから、最終的には漆の盆皿に銘々、各品少量ずつを盛り付けるようにしたところ、見た目にも美しく、家族に好評となった。いまだにそのスタイルは続いていて、年間でも元旦は漆器の良さを一層味わうシーンとなっている。
今はフリマサイトなどで、美しい蒔絵が施された古い吸物椀や塗りの美しい菓子皿などを手頃に見つけることができるので、お正月の特別な器として、お雑煮を雅な蓋付椀に盛り付けるも良し、現代漆芸家作品の中から日常的に使えるお椀や匙などから漆器デビューするも良し。縄文時代から根付く、素晴らしい日本の漆器づかいの文化を、小さなものからでも暮らしに取り入れてみてはいかがだろう。
【プロフィール】
高橋香織さん
千葉県出身。スウェーデン等、海外経験も長く、日本の魅力を再認識。食を愉しむ暮らしをインスタグラムで発信している。産まれたての雛の雌雄を判別する初生雛鑑別師の資格を持ち、全日本初生雛雌雄鑑別選手権大会で2度優勝している。新潟県見附市在住。
◆初の書籍となる『私をもてなす器』12月13日発売
https://www.instagram.com/bono1225/p/DBvJKpsz4BN/?img_index=1