成人の門出彩る振り袖 上質かつ最旬で応える
たなびく雲をかき分け、天を目指す昇り龍。吉祥を表す梅や竹を添え、金銀で縁取られた豪奢な振り袖は、着物産地十日町市のメーカー各社が競い合う求評会で昨年、特別賞に輝いた。デザイナーとして制作に関わった、株式会社はぶきの羽鳥未奈さん(32)は「大きな挑戦だった商品。うまくいくか、探りながらの作業だったからほっとした」と頬を緩ませる。
日本有数の豪雪地、十日町は豊富な雪解け水と適度な湿気に恵まれ、古くから織物産地として栄えてきた。国の伝統的工芸品に指定されている「十日町絣」「十日町明石ちぢみ」のほか、昭和30年代に導入された後染めの技法により生まれた華やかな「十日町友禅」は、振り袖や訪問着として全国的に知られる。
羽鳥さんらが制作し受賞した振り袖は、インクジェットで印刷した絵柄に、職人が手仕事で金彩を全面に施した商品。近年性能が向上したインクジェット捺染は、現在全国的に普及し、振り袖生産の大半を占める。同社でも、伝統的な手仕事による十日町友禅を手がける一方で、ニーズに対応するためインクジェットも扱う。「今は流行廃りが早い。特に成人式用の振り袖は、とにかく流行の変化が目まぐるしい」。職人が型を手彫りして作る型友禅だとおよそ3カ月かかるところを、インクジェットだと1カ月ほどで納品できるという。
最近のトレンドはシンプルなデザイン。淡い色彩で統一し、白を基調にするなどしたものが主流だという。「入社した5年前は、もっと派手に、もっと色を使ってって言われて『こんなに派手でいいの?』って戸惑ったくらい」と羽鳥さんは振り返る。
羽鳥さんは宇都宮市で生まれ、父の転勤に伴い、新潟市や長野市などで育った。高校卒業後は、新潟市内の専門学校でデザインを学び、地元テレビ局系列の制作会社に就職。番組ホームページの制作などに従事した。2020年、結婚を機に夫の出身地十日町市に移住し、デザインのスキルを生かして入社した。
手仕事の名残 あえてとどめて味わい深く
製造工程は、紙に木炭で描かれた原寸大の図案をパソコンに取り込み、着色し、生地に出力。蒸し水洗の後、金彩や刺しゅうを施す。心がけているのは手描きの趣を残すこと。「パソコンでは直線や正円も引けるけど、均一にしすぎないことで味わいが生まれる」と話す。
やりがいを感じるのは、手がけた商品をSNSやパンフレットで見たとき。「実際に形になって、絵柄の配置や色が狙い通りになっていると、喜びを感じる」と笑顔を見せる。
最近は、AIを活用した図案を取り入れるなど新たな試みも行う。「職人も高齢化している。着物文化を絶やさないだけでなく、むしろ育てていかないといけない。そのためには、技術革新に対応するのは自分の役割だと思っている」と前を見据えた。
羽鳥未奈さん
【プロフィール】
はとり・みな 栃木県宇都宮市出身。新潟市の専門学校でデザインを学び、地元テレビ局系列の映像制作会社へ。結婚を機に十日町市へ移住し株式会社はぶきでデザイナーとして多数の着物制作を手がける。