古い倉庫をリノベーション かわいらしいカフェに
櫛形山脈に連なる、鳥坂山の麓に位置する新潟県胎内市下赤谷集落。のどかな山あいの道の先に、木立に囲まれたかわいらしい古民家風の「クマカフェ」がある。ドアを開けると、看板犬のペペちゃんの元気な歓迎に続き、店主の西村フラビアさん(43)が温かく出迎えてくれた。
ブラジル出身の西村さんは日本人の祖父母を持つ日系3世。ブラジル南部のパラナ州で生まれ育ち、16歳のとき、かねて関心があったルーツの日本を訪れた。群馬県や山形県、静岡県など日本各地で暮らし、家電メーカーの製造工場や弁当工場などで働きながら日本語を学んだ。20代の頃はテレビCMに出演するなどタレント活動も。「若かったから、ブラジルと行き来しながら好きなことをいろいろした」と笑う。
出産を機に帰国し、2014年、長男とともに再来日。調理師学校や生け花教室に通い、レストランやパン店勤務のほか、ジュエリーデザイナーなどさまざまな仕事を経験した。
手に入れたのは自然に囲まれた暮らしと人とのつながり
胎内に移住したのは2021年。新型ウイルス禍を機に、自然豊かな田舎で暮らしたいと思い、それまで住んでいた東京から家族で越してきた。「海も山もあって、雪もたくさん積もるけど私は大好き。空き家バンクでいろんな物件を見て、ここに決めた」と話す。
建物は、築100年近い倉庫をリノベーションした。当初、長く人が住んでいなかった母屋はゴミだらけで、竹が茂った庭も「ジャングルみたい」だった。誰一人知人のいない中で途方に暮れていると、ご近所の人たちが訪ねてきてくれたという。「木の伐採にゴミ出しに、全部手伝ってくれた。人とのつながりが一番大事。今も一緒に山に登ったり、庭を造ったりしている」と目を細める。
故郷のパラナ州はコーヒー農場や大豆畑が広がる田舎町。子どもの頃から、コーヒー豆を摘んで、自分でローストするなどしていたそう。「胎内の人の好みに合わせて、酸味と苦みを抑えたブレンドにしている。コーヒー産地で生まれたから、おいしいのは当たり前」と胸を張る。
提供する料理は、旬の食材を使ったパスタやピザなど、イタリア料理が中心。パラナ州は、日本のほかにイタリアやドイツからの移民が多く、西村さんも主にイタリア料理を食べて育った。「産みたての卵を取ってきて、自家製パスタを作っていた。クマカフェでも、おいしい生パスタを気軽に食べてもらいたい」と話す。
開業から2年を迎え、6月にはオンラインショップでスイーツ販売も予定する。今後は土蔵を活用して小物の販売やコーヒー焙煎など、意欲は尽きない。「いろんな所に住んでいろんな仕事をしてきたけど、自分の店を持つのは始めて。季節の食材で、その日作りたいものを出すから、料理は飽きることがない。まずは庭をもうちょっときれいにしないとね」とほほ笑んだ。
西村フラビアさん
【プロフィール】
にしむら・ふらびあ ブラジル・パラナ州出身。16歳で初来日し、日本とブラジルでさまざまな職種を経験。自然豊かな環境を求めて移住し2023年に「クマカフェ」オープン。心尽くしの料理で山あいの地域ににぎわいをもたらしている。