かやぶき屋根の旧家と緑の苔庭が織りなす風情
まっすぐに伸びた杉並木を進むと、雪国ならではのどっしりとした風格を備えた、かやぶき屋根の邸宅が現れる。やわらかな苔に覆われた庭園は、桜やモミジ、杉などの木々に囲まれ、遠くに望む水田を海に見立てた借景庭園となっている。

築140年を超す林富永邸は、1883(明治16)年、当地で庄屋を務めた富永家4代目の富永護右衛門により、かつて高田藩の御林だった土地に建設された。地名から「林」を屋号とし、林富永家と呼ばれるように。当主一家に代々住み継がれ、2007年、上越市文化財に指定された。

酒井里香さんは、7代目当主の娘として、父の赴任地だった長野県で生まれ育った。結婚後、OA機器メーカーに勤務していた夫に伴って米カリフォルニア暮らしを経験したことを機に、食文化に関心を持つように。帰国後は、テーブルコーディネートの第一人者として知られたクニエダヤスエさんの講座に通って学びを深め、長野県内で15年ほど料理教室を主宰した。

上越市へは、子どもたちが巣立ち、夫の宏明さんが役職定年を迎えたのを機に移住。「高齢の両親の様子を見に、上越と長野を行ったり来たりしていたけれど、こちらに移って家を守りながら、より長く残していこうと世代交代しました」
両親が私財を投じて長年守ってきた文化財を次世代につなぐため、宏明さんを中心に「林富永邸サポーターズクラブ がんばれ!林くん」を立ち上げ、地域住民や企業の協力を得ながら維持管理を進める。
歴史ある空間と土地の恵みをコーディネート
2020年には邸内に「CAFE HAYASHI」をオープン。「雪中梅」で知られる地元の酒蔵「丸山酒造場」の酒かすや米こうじを使った発酵スイーツのほか、上越地方の郷土料理笹ずしなどのランチメニューを提供する。テーブルコーディネートの経験を生かし、蔵にしまわれていた器やお膳を使って料理を美しくしつらえる。全国の古民家カフェを探訪する番組に取り上げられたことも手伝い、週末にはたくさんの人が訪れる。

一方、かやぶき屋根のふき替えや建物の修繕、庭の手入れには多額の費用と労力が必要で、継承には多くの課題もある。「維持の苦労は何から何まで。屋根は7、8年をめどにふき替えないと雪の重みで傷んでしまうし、これからの季節は落ち葉の片付けも大変」と苦笑する。
歴史ある建物や庭を生かしながら、県内外の多くの人に林富永邸の魅力を知ってもらい、未来へ残していきたいと考えている。「たくさんの人に林富永邸を知ってもらえたらいい。私たちもいい歳なのでできることだけ」と気負いのない様子でほほ笑んだ。
酒井里香さん
【プロフィール】
さかい・りか 長野県出身。上越市三和区の林富永家7代目当主の娘として生まれ、長野県内で料理研究家として活動した後、2020年に林富永邸内にCAFE HAYASHIをオープン。歴史ある邸宅の魅力を広く伝えようと取り組んでいる。
林富永邸|https://hayashi-tominaga-tei.com/
CAFE HAYASHI|https://cafe-hayashi.com/
【こぼれ話】歴史を感じる秋のまち歩き 上越の旧家4邸一斉公開

日ごとに秋も深まってきました。秋の一日は、地域の歴史に思いをはせながら、名建築を楽しみに出かけてみませんか。
11月7、8日は、上越市内の歴史的旧家4邸による「上越名家一斉公開」(主催・上越名家ネットワーク)が行われます。いずれも上越の地で代々歴史を紡いできた、今では貴重な文化財ばかり。そのうちの一つ、林富永邸では、竹明かりで彩られた邸宅を眺めたり、人力車の乗車体験をしたりできるほか、主屋では呈茶も。色づいた木々を眺めながらゆったりと過ごすことができそうです。
また、一般的には土間にあるかまどですが、林富永邸では室内に。管理する酒井里香さんによると、建築した4代目当主は医師だったため、炊事をする女性たちが体を冷やさないようにとの配慮だったとか。当主の信念が息づく邸宅、じっくりと眺めてみたいですね。
上越名家一斉公開
11月7(土)、8(日)日 10:00~15:00
維持協力費として各邸500円(保阪邸は800円)、高校生以下無料
(assh編集長 野瀬 淳子)




