祭りの太鼓に魅せられて
佐渡島の南端、小木半島の山道を行くと、木々に囲まれて立つ、たたこう館(佐渡太鼓体験交流館)が現れる。のれんをくぐると、太鼓芸能集団 鼓童の宮﨑正美さん(49)が真っ白な鉢巻きを締めた粋な姿で出迎えてくれた。襟に「鼓童」と染め抜かれた藍色のはんてんに腹掛け、ボトムはパッチといわれるパンツ。普段は舞台でしか袖を通さないというが、昔ながらの職人スタイルがまぶしい。
たたこう館は、太鼓体験やワークショップなどが楽しめる施設。樹齢約600年の巨木から作った太鼓を筆頭に、大小さまざまな太鼓に触れることができる。眼下に素浜海岸と大佐渡山脈を一望でき、周辺に民家は見当たらない。「ここでは思いっきり音を出しても大丈夫。気兼ねなく太鼓をたたけるんです」と宮﨑さんは朗らかに話す。
熊本県水俣市生まれ。太鼓との出合いは、当時、市街地を舞台に開かれていた地元の祭り「恋龍祭(れんりゅうさい)」だという。打ち鳴らされる太鼓の音に心引かれながらも、地元青年会議所会長だった父の頼みで、祭りでは毎年巫女役を務めていた。その後も太鼓への思いはやみがたく、大学卒業後の1998年、鼓童の門をたたいた。
佐渡に息づく暮らしのリズム
「太鼓のたたき方を習ったら帰ろうと思っていたのに、気がついたら25年たっていましたね」と笑う。ひかれ続けているのは、太鼓が持つ人と人とをつなぐ力。「寄せ太鼓でみんなが集まり、太鼓で祭りが盛り上がり、お宮でたたき収めて締めくくる。太鼓はただの楽器ではなく、コミュニケーションツールなんですよね」と語る。
佐渡の豊かな自然と、助け合って生きる人々の営みにも魅せられている。「山があり海があり、春には花が咲き、鳥が鳴く。夜はちゃんと暗くて静かで、明るくなったら起きて働く。人が生きていく上での基本のリズムが感じられるんです」と話す。
鼓童のメンバーとして各地の舞台に立つ傍ら、2014年からは鼓童文化財団の職員としての活動に軸足を置く。現在は「エクサドン」と名づけた太鼓を活用した健康増進プログラムなどのワークショップに力を入れる。「太鼓をたたくとオープンにならざるを得ない。老若男女、どんな人でも必ず元気になって帰っていく」と強調する。
近年はワークショップや子育てなどで忙しくしてきたが、今後は演奏にも力を入れたいとする。「経験やひととなりは音に出る。若い頃にはできなかった、今の自分だからできる表現方法を探していきたい」と力を込める。
読者に向けては「そろそろ自分の力を信じよう」とメッセージを送る。「何かやりたいことがあるのにちゅうちょしているのなら、誰に遠慮しているのと言いたい。自分を信じて、一緒にやりましょう」と、ひときわ目を輝かせた。
太鼓芸能集団 鼓童 宮﨑正美さん
【プロフィール】
みやざき・まさみ 1974年、熊本県出身。98年より鼓童文化財団研修生として学び、2001年、正式メンバーに。各地での公演に参加するほか、2014年からは鼓童文化財団職員も兼務し、たたこう館(佐渡太鼓体験交流館)で講師を務めている。
たたこう館(佐渡太鼓体験交流館) https://tatakokan.jp/