大自然からの贈り物 生命力に満ちた無添加のごちそう
長岡市の繁華街、殿町の片隅に、猟師の和田正子さん(50)が営むジビエ料理店「猟師食堂WADA正」がある。
カウンターを囲んで8席の店内は、ほどよい狭さと薄暗さが心地よく、時間を忘れてしまいそうな感覚に陥る。店内にはツキノワグマやキツネ、アナグマといった野生生物の毛皮や骨が所狭しと並び、未知との遭遇が高揚感をかき立てる。
ジビエとは野生鳥獣の食肉を意味するフランス語。日本でも、増えすぎた野生鳥獣が田畑を荒らすなどの被害が問題となっており、駆除した動物を食肉として有効活用するジビエが注目されている。
「ジビエは動物たちが好きなように野山を駆け回ってできた天然の肉。さばくときに胃の中を見ると、みんな自然のいいものを食べている。だからこそ、おいしい」と和田さんは誇らかに話す。
食材は県内産の食肉が中心で、メニューはその日手に入る食材次第。イノシシやシカのほか、カモやアナグマ、ツキノワグマなどを、ハンバーグやレバニラ、焼きそばといった家庭料理にして提供する。「イノシシのレバーは臭みがない。牛乳に浸したりしなくても、全然臭くないんですよ」
常に初心を忘れず 「命奪うことに慣れないでいたい」
小千谷市出身。介護士として24年務め、40歳で狩猟免許を取得した。「もともと食べることが大好き。趣味で魚を釣っていたけれど、飛んでいるカモを捕まえて食べたいなと思ったのがきっかけ」と笑う。
長岡市内の山で行う狩猟は、10人ほどのグループで行い、親方の指示で勢子(せこ)が追い立て、マチが仕留める。「特に『女扱い』されることなく、チームワークで狩猟をするのが楽しい」と話す。
ジビエのおいしさを広く伝えようと、2017年に店をオープン。さまざまなジビエを扱う中でも、和田さんが一番好きなのはアナグマ。「脂が多く、塩こしょうして串焼きにするだけでおいしい。バターを使って焼いたみたいな味がします。鮭の味がするっていう人も。脂はあっても、胃もたれはしません」と薦める。
メニューやSNSでの投稿には毎度「今日の命いただきます」と記す。心がけているのは常に初心でいること。「みんなで分け合って、感謝していただく。命を奪うことに慣れないでいたい」と話す。
農作物の被害を防ぎ、生態系を保護するためにも、駆除された命が廃棄されることなく、有効活用する循環が生まれることを願う。「ジビエだからと構えずに、まずは食べてみてほしい。いつか、一般の人が買えるような手頃な値段で、ジビエがスーパーに並ぶようになるといい」とほほえんだ。
和田正子さん
【プロフィール】
わだ・まさこ 新潟県小千谷市出身。介護職を経て、40歳で第一種銃猟免許取得。2017年、長岡市内に「猟師食堂WADA正」をオープン。社会課題解決にもつながるジビエのおいしさを広めている。