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2025.03.02 special

「Ichi-Rin 苺禀」若杉智代子さん/イチゴも地域も後進も 手塩にかけて大きく結実

シリーズ

assh表紙の人

エリア

下越/佐渡

清らかな水が育む特別な越後姫

飯豊連峰から流れる清流加治川が大地を潤す新発田市米倉地域。昔ながらの農村の風情を残す地域に、若杉智代子さん(53)が営むイチゴ農園がある。


ハウスには、実をつけ始めた新潟県発祥のブランドイチゴ「越後姫」が並ぶ。「米倉は水がいいところ。越後姫は香りや甘みが強いけれど、うちのは特に強いと言われる」と胸を張る。

新発田市出身。高校卒業後、進学のため上京。学会運営などに従事し、結婚後は夫の留学に伴い、米ハワイで暮らす。2004年にUターンし、2015年、地元でイチゴ栽培を始めた。


就農のきっかけは、稲作と畜産を営んでいた父が、イチゴ栽培を始めた矢先に体調を崩したことから。「農業をやるつもりはなかったけど、父に頼まれて。幼い子どもを育てながら、ハウス1棟だけなら、と始めた」

未経験のまま、たった一人で始めたイチゴ栽培。周囲の農家に教えを請いながら手探りで栽培を学んだ。
しかし3年目には、病原菌により苗や果実が白くなる「うどんこ病」が発生し、収量が3分の1に。農薬で抑える対処法に疑問を持ち、極力農薬に頼らない栽培に切り替えた。「人間と一緒で、薬で病気を抑えるイチゴは健康体じゃない。ハウスに菌を持ち込まず、日々の管理を徹底している」と話す。


2018年にはブランド「Ichi-Rin苺禀」を立ち上げ、新発田市内に設けた直売所でイチゴのスイーツや加工品の販売を始めた。「ハウス1棟では収益が上がらない。何かしなきゃ、と試作を重ねた」

目をつけたのは、健康意識の高まりから当時流行り始めていたドライフルーツ。市場調査を行い、アパレル店の棚にも置けるサイズやデザインのパッケージを作製した。香りと甘さを凝縮したドライイチゴは、ネットショップなどでも販売し、軽くてお土産にも便利と喜ばれているという。


一人で何役も「地域のため」パワフルに前進

現在は新発田市の農業委員として、新規就農者のサポートや耕作放棄地の解消にも尽力する。「実験的に、今年はパパイヤを植える予定。パパイヤは抗酸化力の強いスーパーフード。軌道に乗せて、地域課題解消につながるといい」とほほえむ。
常にアンテナを張り、地域のために何ができるかを考える。「『ないものは工夫して作る』という精神は、海外生活で鍛えられたかも」とにこやかに話す。

収穫作業に赴く早朝、二王子岳の向こうから昇る朝日を見るたびに感動する。「小さなことに、一つ一つ感動する。一度外に出たからこそ、ふるさとの自然の美しさに気付けたと思う。地域の中学校でPTA会長をしているが、子どもたちには、まず外に出て広い世界を知ることが大事、と話している」。

2019年には新発田市内の20~50代の女性農業者約40人でグループを立ち上げた。各自資料を作って発表したり、イベントを開いたりと、スキルアップを図る。「男性が多い業種だけど、女性の力は大きい。わざわざ女性活躍を推進しなくても、自然と活躍できるように力をつけていければと思う」と気負いのない口ぶりで話した。


若杉智代子さん
【プロフィール】
わかすぎ・ちよこ 新潟県新発田市出身。イチゴ生産の傍ら、スイーツ加工も手がけ、直売所「Ichi-Rin 苺禀」を運営。新発田市農業委員としても活動し、耕作放棄地の解消や新規就農者のサポートにも取り組む。