新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
先月のこととなりますが、1週間ほど映画館を離れ、東京に出張してまいりました。とある“国際的な”プロジェクトに参加するためです。それは、国際交流基金が提供する海外の若手映画人との人材交流プログラムだったのですが、ASEAN諸国からの参加者(9カ国10名)と一緒に日本映画の上映企画を考えるというもので、私はそこで参加者と伴走しつつ適宜アドバイスを加えるという役目を負いました。
各国の映画(館)状況というのは本当にさまざまで、日本でいうところのミニシアターのような独立した、多様な映画を上映するような映画館がなかったり、そもそも映画館が国内で数えるほどしか存在していなかったり、はたまた国内で紛争が続いていたりと、新鮮な感覚で話を聞いておりました。その一方でそれぞれが現地で映画の上映活動に従事しているということもあり、「映画」という共通言語を通じて対話を重ねられたのはとても貴重な体験でした。
このプログラムでは最終的に各国でその企画上映を来年に実施する予定となっており、出張を終えてからも引き続きチャットでやり取りしながら情報共有をしたりフォローをしたりしている、といったような状況です。
現地での上映会には私もいずれかの国を直接訪れてトークイベントなどに参加する予定になっております。他人事のようですが、すごいですね(笑)
プログラムの中ではエクスカーションが組み込まれており、そこで日本のミニシアターを訪問するという機会も設定されておりました。その中にはユーロスペース、シアターイメージフォーラム(いずれも東京)という日本を代表するミニシアターもあれば、シネマテークたかさき・高崎電気館(群馬)、深谷シネマ(埼玉)というローカルで奮闘している劇場もありました。私も初めて深谷シネマを訪れる機会を得ましたが、ミニシアターが一般的ではない(というかそもそも存在しない)ASEANの方々にとっては地方にこんな形で劇場が存在しているのを見るのはとても刺激的だったのではないかなと思います。
私もこの交流プログラムを経て、改めてミニシアターの役割について考えを巡らせるようになりました。他の国々では映画館という存在が当然のものとしてあるわけではない中で、そこに映画館があるという意味、映画を支える人々(コミュニティ)がいるという意味、そうしたことを意識するようになりました。
出張から帰った翌日には慌ただしくも監督の舞台挨拶が待ち構えていたわけですが(なんなら出張の前週にも同様に舞台挨拶がありました)、日常の風景にもなりつつあるこの行事も他国においては自明のものではないわけです。これはやはり映画館という施設があり、文化としての継続性があり、また日本特有の状況ではありますが、地方のミニシアターと独立系の配給会社が結びついた興行スタイルが定着しているからでもあります。私たちはその恩恵を充分に受けているのだと思います。
さて高田世界館で行う「舞台挨拶」というものは、実態としてはトークショーに近い形で行っています。だいたい40分くらいは時間をとっていますし、(立ちではなく)椅子も用意するのでしっかり話してもらう気マンマンと言った様相です。「舞台挨拶」に慣れている監督さんからは「そんなに長く喋れない!」と驚かれたりもします(笑) 長ければ1時間に及ぶこともあります!
元々が、せっかく遠く高田まで来ていただいたのだからたくさん話を聞きたい、というところからそのような形になったかと思いますが、私が対談相手として同じくステージ上に座ることで、実のところあっという間に時間は過ぎていったりします。
なぜこの時間をかけて、しかも私が並んで座るのか。それはやはり映画を通じて対話を生むためです。ちゃんと「自分はこう思う」とぶつけること。そして会場からも質問を受け付けること。そうすることで監督からの一方通行にならないことを企図しています。
まだまだ掴みかねている部分ではありますが、そうしたことが観客と映画を結ぶミニシアターの流儀であるとともに、これこそが高田世界館の価値だというふうに思っています。たまたま別の舞台挨拶の場に居合わせたある監督は、「自分の作品がこんなふうに掘り下げてもらえるとしたらとても羨ましい」ということを仰っていました。
まだまだ映画館としては道半ばではあるのですが、初心に帰ったり、時には外からの刺激を受けたりしながら映画文化を地域の皆様と共に耕していければと思っております。
実は高田世界館は来年の1〜2月が館内の修繕工事のために休館となります。映画の火を内に灯しつつ体勢を立て直し、またパワーアップして戻ってきたいと思います!
※アイキャッチはことし6月に開いた『能登デモクラシー』五百旗頭幸男監督サイン会の様子
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/







