活躍の場求め、なじみのない豪雪地へ
周囲を山々に囲まれた十日町市松代地域。奴奈川姫の伝承が残るこの地に、女子サッカーチーム「FC越後妻有」の拠点「奴奈川キャンパス」がある。
炎天下の競技場の隅に、練習を終えた選手たちが簡易プールでアイスバスに入りながら談笑する姿があった。にぎやかな声が響き、時折あがる大きな笑い声が山あいの集落にこだまする。
FC越後妻有は2015年、女子サッカー選手が棚田の担い手として移住、就農しながらプレーする実業団チームとして始まった。選手は現在12人。午前中に仕事をし、午後は練習をする。現在は農業のほかに、ことし7月に開幕した「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」の広報や施設管理など、担う業務は多岐にわたる。
2021年に加入したゴールキーパーの木村珠奈さん(26)は奈良県出身。小学3年でサッカーを始め、中学時代は奈良県選抜選手として国体に出場するなど活躍。高校、大学でもサッカーを続け、FC越後妻有には大学の先輩が所属していたことから興味を持ち、入団した。
当初は慣れない環境に戸惑った。十日町市は日本でも有数の豪雪地。「雪が3㍍くらい積もるかな。ゴールも埋まるし、それは過酷で。最初は帰りたいなって思いました」。それでも頑張れたのは、地元の人たちの笑顔。「熱心に応援してくださるのが、エネルギーになっている。練習場にネットを張ってくれたり、芸術祭の作品受付をしてくれたり、本当に支えられている」と感謝する。
学生時代を大阪、神戸で過ごし、飲食チェーン店のないまちに暮らすのも初めてだったが、自分たちで食材を調理して食べることが習慣に。苦手だったナスも、漬物のおいしさは「衝撃的」で、野菜全般食べられるようになった。「人としての生きる力が身についたかな。地元の人は何もない所と言うけれど、このまちで育った子どもたちがうらやましい」。大好きだったうどんチェーン店やジャンクフードも、「なくても全然大丈夫」と愛嬌たっぷりに話す。
芸術祭では、作品の製作やメンテナンス業務を担当。周辺の草刈りや除雪、清掃のほか、担当した企画展の一つ「Nakago Wonderland–どうぶつ達の息吹と再生」では、作家を探して出展交渉するところから関わった。
選手として社会人として成長の日々
女子サッカーの環境は、男子と比べ待遇面で今なお厳しい現実がある。2021年に日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が発足し、女子のプロ選手も誕生したが、サッカーだけを職業にしている選手はごく一部。仕事をしながらプレーを続けるFC越後妻有のように地方創生や地域との協働事業を仕事にしているチームはほとんどない。木村さんはセカンドキャリアを見据えてFC越後妻有を選んだ。「社会人として、いろんな経験をさせてもらっている」と充実感を漂わせる。
チームは2020年、県リーグを制し、北信越リーグに戦いの場を移した。現在は4県8チームで戦い、上位リーグへの昇格を目指す。「プレーで結果を出して地元の皆さんの期待に応えたい。優勝を目指している」。「社会人としてはまだまだなんですけど」と肩をすくめた ちゃめっ気ある表情から一転、真剣なまなざしで前を見据えた。
木村珠奈さん
【プロフィール】
きむら・じゅな 1997年、奈良県出身。大阪学芸高、神戸親和女子大を経て2021年「FC越後妻有」に加入。大地の芸術祭では製作・メンテナンスを担当。お気に入りの作品は川西エリア・節黒城跡にある白川昌生「さわれる風景Ⅰ 城主の座」。