地元の野菜と酒かす 雪国が育んだ風味絶佳な一品
魚沼丘陵と越後山脈に挟まれた、新潟県南魚沼市六日町地域。人が行き交う商店街を背に小道を進むと、200年以上前に建てられたという今成漬物店の漬物蔵が現れる。ひんやりとした、薄暗い蔵の中には、長年使い込まれた大小さまざまな木樽が並び、最終工程に入った山家漬(やまがづけ)が熟成を待っていた。
山家漬は、南魚沼の地酒「八海山」の酒かすに、地元の野菜や山菜を漬け込んだかす漬け。およそ700年前に落ち延びてきたという今成家は、「鴻池屋」の屋号で魚野川の舟運や酒造りなどを営み、江戸中期頃からは酒かすを活用してかす漬けを造っていたという。
「山家漬」の名は、歌人で書家の会津八一によるもの。昭和初期、今成家21代当主の隼一郎さんが商品化を思い立ち、旧制新潟中学の先輩で親交があった八一に依頼した。「都市部に販路を見つけるためだった。地域で食べるだけでなく、この土地がどう収入を得るかということを考えていた人だった」と、隼一郎さんのひ孫で同店4代目の今成要子さん(53)は説明する。
時経ても揺るがぬ味 「流行よりスタイル」に共感
今成さんは都内の短大を卒業後、文学が好きだったことから詩集を専門に扱う出版社に就職。その後、高級ファッションブランド「シャネル」の販売員に。「創業者のココ・シャネルがつくり上げたのは流行ではなくスタイル。時代を経ても揺るがないものを目指すところに共感する」と話す。
40歳で、出産を機にUターン。子育ての傍ら家業を手伝うようになった。「もともと食いしん坊で食べ歩きが大好き」という今成さん。山家漬のうまみが染みこんだ漬け床を使った「クリームチーズの粕漬」や、それを漬物と共にもなかの皮で挟んだスイーツ「つけもなか」を考案し、若い世代にもファンが広がる。
「つけもなか」は2022年、全国から集まった地場産商品を発信する大会「にっぽんの宝物 JAPANグランプリ」で最高賞に輝いた。「見た目はかわいくても、味わいは本格的に。先祖から受け継いだ山家漬があってこその商品」と今成さん。
夏に塩漬けした野菜を発酵させ、秋に酒かすに漬け、雪深い冬は静かに寝かせて熟成させる。添加物を使わず、時間が造るおいしさには幅があり、いつも同じにはならない。「シャキッとしていてもしっとりとなじんでいても、どちらもおいしい。時間をかけて発酵させたもののおいしさを、もっとたくさんの人に知ってもらいたい」と、今成さんは朗らかな笑顔をみせた。
今成要子さん
【プロフィール】
いまなり・ようこ 南魚沼市出身。都内出版社、ブランド店勤務を経てUターン。300年にわたり受け継がれる家業の「山家漬」を受け継ぎ、現代的な発想で若い世代にもそのおいしさを伝えている。