
「春はそこまで 寒さを心地よくする暮らしの一手間」
立春を迎えると、春は確実に来るよと約束してもらえたようで嬉しい。
元来寒さが苦手で、小さい頃から毎年冬を越せないのではと思うほど絶望感と暗い気持ちで過ごしていた。
地元千葉は冬でも驚くほど快晴で、毎日太陽が出るのはありがたいが、風の強い日が多くとても乾燥している。寒さが肌にピリピリと突き刺さるようで、学校の登下校がとてもとてもしんどかった。
新潟の小学生たちが深い雪の中を元気に登校している姿を見ると、そんなことを思っていた自分を恥じるが、当時の私には快晴続く冬でも苦痛でしかなかった。
大人になり、真冬はマイナス10度以下にもなる極寒のスウェーデンで8年暮らして苦手を克服できたように感じたけれども、帰国してみるとそんなことはなく、少しがっかりしたものだ。
ただ、新潟の寒さは千葉に比べて気温こそ低いものの、すっぽり雪のお布団に包まれるからか、突き刺すような寒さが少し和らぐような感じがするのは救いだ。
そして立春も過ぎれば、いよいよ春がそこまで来ていると自分に言い聞かせ、寒さを楽しむ心の余裕が出てくる。
風景が白で覆われて薄暗い新潟の冬は、少しスウェーデンと似ている。スウェーデン人は家に籠る時間を心豊かに過ごす術をよく知っていて、私も多くのことを学び、今も暮らしに取り入れている。
心地良いものや素敵なもの、上質なもの、自分の好きなもので自分自身や暮らしを囲む。日本でも最近では耳にするようになったFikaする(フィーカ・お茶する)時間。心を緩めるゆったりした時間。暮らしに寄り添うぬくもりのある木の道具たち。
我が家に電子レンジや炊飯器はない。食材を茹でる、蒸す、温め直すなどレンジがあれば早いけれど、土鍋のコトコトなる音、湯気を感じたり、沸騰する湯面を見つめたり、炎の色を感じることができる一手間、暮らしの動作の一部が、心ほぐす時間となるからだ。寒さをも好きな時間にする魔法だ。
暮らしの動作ひとつひとつ、細部に意味を感じながら、今という「一瞬を生きている」ということを実感して時間を紡いでいくことは、なんとなく過ぎる毎日ではなく、自分自身が作り上げていく時間の積み重ねを実感できる。それは人生の色濃さに繋がる気がしている。
不便を推奨するわけでもなく、便利さを非難することでもなく、自分自身が心地良く生きられる選択を自分自身がして、自らの選択で自分の人生を作ることが、たくさんの幸福感をもたらすと思うのだ。
【プロフィール】
高橋香織さん
千葉県出身。スウェーデン等、海外経験も長く、日本の魅力を再認識。食を愉しむ暮らしをインスタグラムで発信している。産まれたての雛の雌雄を判別する初生雛鑑別師の資格を持ち、全日本初生雛雌雄鑑別選手権大会で2度優勝している。新潟県見附市在住。
◆書籍『私をもてなす器』発売中
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