四季の息吹映す庭 酒蔵が開いた自然の中の新施設
飯豊山地に源を持つ加治川と、二王子岳から流れる姫田川が交わる、新潟県新発田市島潟。創業144年を数える菊水酒造が拠点を構えるこの地に今春、「KIKUSUI蔵GARDEN」がオープンした。
広大な庭園には四季の花が咲き乱れ、趣のある土蔵や水鉢の先に木立に囲まれた小道が続く。酒林がつり下げられた門扉の向こうには、日本酒にまつわる3万点もの資料を集めた「菊水日本酒文化研究所」や伝統的な酒造りを行う「節五郎蔵」があり、遠くに酒米を育てる青々とした田園が広がる。
「大切にしたのは自然を生かすこと。緑豊かな場でゆったり過ごして、もっと地元を好きになってもらいたい」と、施設全体のディレクションを務める南波麻美子さん(45)は話す。
KIKUSUI蔵GARDENは「発酵」をテーマにその魅力を広める施設。発酵にまつわるワークショップを開くラボや、麹や酒かすを使ったメニューが並ぶカフェなど、発酵を五感で楽しむ数々の設備が広がる。
KIKUSUI蔵GARDENの企画に際し目指したのは「在り続ける蔵」の体現。南波さんは「この地に根付き、在り続けるためには、いいお酒を造ると同時に次世代にいい思い出を残すことが重要」と考え、発酵を通じて日本酒の奥深さ、面白さを知ってもらうことと、親子3世代で楽しめる場の両立を目指した。
敷地内には枯山水の日本庭園があり、カフェの窓から一望できる。昭和期に数々の名勝庭園を手がけた田中泰阿弥による庭園は、創業家の私邸に造られたもの。建物はひさしを長く取り、日差しを遮って緑の美しさに没入できる。「発酵食品を使ったメニューが体に優しいのはもちろん、心も満たして、ゆったりと心身を癒やしてほしい」と南波さんは話す。
ワクワクする体験 おもてなしの心でプロデュース
静岡県出身。結婚を機に新潟へ。当初は日本海側の鉛色の空にカルチャーショックを受けた。「だけど、夏を迎えたら、すごく濃い青い空と真っ白い雲と田んぼの緑が鮮やかで。稲が風にそよいだとき、良いところに来たなって、本当に心から実感した」と振り返る。
前職は都内芸能プロダクションのマネジメント業。「気持ちが上がる、ワクワクすることを演出したい。まったく違う世界だけれど、お客さまがどこに気持ちよいと感じるかを量る視点は、経験が生きているのかもしれない」。
自社の強みは「社員一人一人のホスピタリティ」と語る南波さん。「手前みそになるけれど、お客さまにお楽しみいただくためにはどうしたらいいか、一人一人が常に考えている。それは自ら着ぐるみを着てお客さまをもてなそうとする代表の姿を見ているからかも」とほほ笑む。
今後は一層子どもたちがのびのびと過ごせる場づくりを目指す。「何度でも通ってもらえる場にするのがわれわれの仕事。今後に期待していただけるとうれしい」と力を込めた。
南波 麻美子さん
【プロフィール】
なんば・まみこ 静岡県出身。芸能マネジメント業や事務職などを経て、結婚を機に移住。菊水酒造に入社し、2025年4月にグランドオープンした「KIKUSUI蔵GARDEN」施設全体のディレクションを務める。