
新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
このコラムに書かせていただくようになってから、1年ほどが経ちました。 とりとめもないような内容がほとんどですが、畢竟(ひっきょう)私が取り組んでいることは、この町で再び映画館を維持することができるかという命題にかかっています。
このコラムのタイトルには「映画アバンギャルド」と銘打っておりますが、そもそも、この現代、そして地方都市(しかも県庁所在地でもない)において、映画館を維持することそのものがアバンギャルドである。 つまり、まともなことをやっていては映画の灯をともし続けることはできないという思いが大元にあります。
私どもはアニメなどの強力なコンテンツを持っているわけでもないわけですから、 かなりジリ貧なところでやっている。決して映画で儲かるわけではない。 周りを見渡せば動画配信もあるし、 レジャーも多様化しています。 つまり、多くの選択肢がある中で、みんな別に映画を見ているわけではない。そうした中で映画館を維持するというのは、相当なハードルの高さがあります。
興行は水物ですから、上映するプログラムの決め方には特に定石やセオリーがあるわけではありません。私たちミニシアターに分類される劇場は「お客が入る映画をただ流せばいい」という状況下にはないわけですから、そうなると、お客を呼び込むためには必然的にアイディア本位、企画ありきでプログラムを組むような状況になってきます。
上映する作品に何かしらの文脈が足されたり、社会的な背景を受けたりすることで、ようやくその作品を押し広めることができる。その意味においては、映画館の商売というのは、常に現実世界と接続しながら日銭を稼いでいる。そのようにも言うことができるかと思います。
「現実世界」―――。今年は特にそれをまざまざと感じさせられることとなりました。夏にさしかかり、プログラムもなかなか決まらない中で、去年好評だった広場の巨大プールを再び作ろうという話になりました。
お!それいいじゃん!じゃあプールにサメを浮かべてサメ映画でも上映しよう!ということでトントン拍子で話が進み、一気にプログラムが決まっていきました。
しかし、その矢先。上越市の小雨によるダムの渇水がニュースで報じられました。自治体からは節水要請が出まして、せっかく企画準備を進めていたプールの設営もあえなく中止となってしまいました。
天気やダムの水位ひとつで企画が崩れる映画館、というのも変な話なのですが、私どもはそんなことでへこたれるサメ映画館ではありません。プール設営に合わせたイベントは潰えたものの、サメ映画の上映企画はそのまま残し、この苦境を逆手に取るような珍奇なアイディアが生まれたのです!
なんと、サメムービーを自ら撮ってしまったのです・・・
「人間の手によって干上がったダムから生まれた怨念サメが、水をムダにするパリピを次々と襲うパニック啓発ムービー」という、説明したところで何を言ってるかわからない代物なのですが、まもなく断水なるかという現在の上越市の状況を色濃く反映した企画が立ち上がりました。撮影は炎天下の中1日で終わり、今も絶賛編集中なのですが、果たしてこれがウケるのか、意に反して大スベりするのか全く見通せません。頼む、バズってくれ!!
さて8月はサメ以外にも昭和の特撮映画の金字塔「大魔神」シリーズ三部作の上映や、今年上半期の大ヒット香港映画『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』といったアクの強い作品が並びます。
当初は戦後80年の節目に戦争映画をしめやかに上映する夏になるだろう・・・と思い描いていたのですが、結果としてバリエーション豊かなラインナップとなりました。
節操がない、といえばまさにその通りです。ただ、それこそがアバンギャルドであり、この映画館の生きる道なのでしょう―――
目まぐるしく変わっていく状況に合わせた柔軟性、そして雑多さがミニシアターの強みであると思います。
皆様にはこの”節操ある”劇場に巻き込まれながら楽しんでいただけたら幸いです!
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/