皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
TOKUのasshコラム第9回です。
先日パリから予定より早く帰国して、

12/2 のブルーノート東京・追加公演の終演後。左から4人がチドリ・カルテット、ゲストの多和田えみ(vo)、エンディア・ダベンポート(vo)、僕、デビッド・ブライアント(p)、ゲストのNAOTOくん(vln)、安田幸司(b)、山崎隼(ds)
それにしても、海外にいても公演に必要なやり取りを前もって出来るなんて、なんと便利な時代になったのでしょう。とくに今回は、普段やることのないストリングス・カルテットとの共演のため、普段使うことのない譜面が必要なタイミングだったので、自分でもこの便利さを感じながらの準備でした。これにはテクノロジーの進歩が及ぼす影響の大きさを感じられずにはいられませんでした。
それと同時に、自然と気付かぬうちに失われてしまうものや感情などもあるのでしょうね。何かが変わるということは、そういうことを意味することでもあるのでしょう。
便利になることによって、物事が早く行われる、早く欲しいものが手に入る、ということから人間の忍耐力が失われていくのを、普段の出来事から感じることがあります。
時には危険なことも起こり得ますが、僕がとくに危惧しているのは人間と人間の繋がりの変化です。それは同じことを目指す者同士でも感じることがあるのです。もちろん世代の違い、出身の違いなどもありますが、少し前までは何かもっと強いもので繋がっていたように感じます。
元は軍事技術であるインターネットというものが一般に普及し、この世界はガラリと変わりました。それによって、オーラルなコミュニケーションが著しく減ったことは間違いのない事実です。直接的な会話は一瞬一瞬の気持ちの温度が相手に伝わります。または相手の気持ちを感じ取ろうと思えば感じ取ることが出来ます。電子的なメッセージは便利ではありますし、僕自身も大いに活用しますが、温度を伝えることは直接的な会話には到底及びません。この変わらぬ事実は目に見えない大きな影響を人間の在り方に与えているのではないかと強く感じることがあります。
11月のパリはもう真冬、気温は日にもよりますが昼間は10度前後、夜になると2〜3度になることも。外での体感温度はかなり寒いです。僕は幸い新潟出身で寒さには慣れていることもあり、日本の寒さとはちょっと違い空気はとっても乾燥しているのでまとわりつく寒さでもなく、そんなには大変ではないかなあという感じ。夏より冬の方が好きな僕にとっては、楽ではありませんが冬の美しいパリは街を歩きながら楽しめる余裕も一応はあるのです(笑)。
それにヨーロッパは昔からセントラル・ヒーティング・システムがあるので、建物の中はちゃんと暖かいのです。このシステムは僕はとても好きなんです。ガンガンに暖房をつける必要もなくとてもエコロジー、風もなくとても優しい暖かさです。
夜うちに帰るとヌクヌクとその暖かさの中であったかい飲み物を飲みながらゆっくりするのが大好き。かなりのリフレッシュになるんです。
さて、11月のパリではレコーディングとバーでのライヴ、そしてとあるイベントに参加したので、そのお話もぜひ。
「キノタヨ映画祭」という、今年で20周年になる映画祭の開会セレモニーでの演奏という機会をいただいたのです。この映画祭は毎年パリで約1カ月に渡り、主に日本文化会館とギメ美術館において日本の映画を紹介するというイベントなのです。
11/21 の金曜日の昼間に、パリの日本文化会館の一番広いホールに向かいました。このホールは2020年にフランスで先行リリースされた僕のアルバム「TOKU in Paris」のリリース記念ライヴを開催させていただいたところです。パンデミック直前の2月の中旬というタイミングでパリにいた僕は、そのあともフランス各地、そしてロンドン、ベルギー・ブリュッセルでの公演を行い、パリに戻ってから帰国というスケジュールの中で、新型のウイルスが蔓延し始めた、ということを聞きました。帰国の前日に、友人とパリの街中を歩きながらその時点での感染者数を聞いたところ「20人くらいかな」と友人が言ったのを覚えています。
そんなことまで思い出してしまいましたが、この日のことをとても楽しみにしていました。
遡ること半年以上、3/15 のパリ「Sunside」というジャズ・クラブでのライヴ終演後に日本語を普通に話すフランス人の女性に話しかけられました。「ずっとあなたのファンです。私の主催する映画祭でぜひとも演奏してほしいです」と声をかけてくれたのはヌシャさんという方で、以前に長く日本に住んで企業に勤めていた方でした。
そして何度かのメッセージをやり取りして夏に再会し本確的な打ち合わせを始めていきました。
リヨンという、パリから南東にいったスイスのジュネーヴに程なく近い街に住む日本人の琴奏者の方が映画祭のジングルを演奏しているということで、ぜひこの方と共演できないかというアイデアをいただきとても楽しみになったのです。
この方は宮崎みえこさんといって、20年ほどフランスに住んでいるアーティスト。いろんな演奏経験をされてきた方で、オンラインで初めてお会いし、自由に即興するような形でやってみましょうという話をし、当日初めてご対面となりました。
会場でサウンドチェックの後、いろいろアイデアを出しながら、バッハの「トッカータとフーガ」の最初の2分の部分にトライ。久しぶりのクラシックだったのでかなり緊張しましたが、トラブルがありながらも楽しくリハーサルは終わりいよいよ本番。
会場には300名以上の日本映画ファンの方々が集まり、会館長の挨拶から来賓の挨拶があり、主催の呼び込みでステージへ。バッハから始まり、演奏時間は即興を含めた10分以上になり、お客様からたくさんの拍手をいただきました。どうやらとても楽しんでくれたようで、イベントが終わった後のカクテル・パーティーではたくさんの方に「Bravo!」と話しかけられました。彼らフランス人はとっても正直に自分たちの感情を言葉にする人たち。そこに気遣いは良くも悪くもありません(笑)。なのでそのままのお気持ちだと有り難く受け取っておきました。
琴の宮崎さんとの演奏は本当に楽しく、この機会を与えてくださったヌシャさんに感謝です。
同時にまた日本文化会館でコンサートをやりたいなと思いました。
9月から徐々に自分の次のアルバムの制作に入っているのですが、先月に2回目のレコーディングを行いました。前回と同じくKrispy Records で、僕のレーベル「Jazz Eleven」のオーナーでもあるピアニストのGiovanni Mirabassi、そしてベーシストとドラマーは若手の中でも素晴らしいセンスの持ち主でもある Solène Cairoli と
レコーディングという作業は前からとても大好きなことで、どうやら僕はスタジオというところにいるのが大好きなようなのです。日々たくさんのミュージシャンたちがやって来ては集中力を高めて演奏に臨むところ、やはりミュージシャン達の魂を感じるところなのです。だから自然とインスピレーションは高まり、クリエイティブになれる。だからこそ好きなんだろうな。今までの経験の中でもスタジオで曲ができることが多いんです。1人でピアノを弾いてはその瞬間に聞こえてくる音を具体的にしようとしているとふっと降りてくることがあるんです。曲が生まれる瞬間です。これほどエキサイティングなことはないかもしれない。この上ない至福を感じる時です。
今年の夏に地元の会館でコンサートを開催した次の日に、実家のスタジオでピアノを弾いている時にできた曲は9月にレコーディングしました。
ゆっくりではありますが、着々と完成に向かっています。実はこういうレコーディングの仕方は初めて。やってみたかったことでもあります。このやり方でどんな風に完成するのか、自分にとってもすごく楽しみです。
制作にじっくりと時間をかけるアーティストは世界的にもたくさんいますが、ジャズ界では珍しいかも。来年の夏くらいの完成を目指して作っていきますので、皆さま是非ともお楽しみに!
それではまた。
Stay warm !
TOKU











