新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
高田に冬の季節がまたやってきました。今年は何度も強い寒波に見舞われ、(除雪の忙しさなど)体感でも雪が多く感じます。
ここ最近は12月から降ることが少なくなってきてはいましたが、今年はシーズンに入ってからすぐに降雪がありました。新年早々からもわっせわっせと除雪に勤しむこととなりました。
さて高田世界館は今月上旬から休館に入り、改修工事を行っております。2月末までの長期工事となり、壁・柱のヒビや崩れなど、長年(100年以上!)の営業の中で少しずつ歪みが生じていた箇所を修繕する形となります。上映など営業には直接影響しなかったこともあり、放置されていた箇所でもあります。
その中でも修繕プロジェクトの目玉であるのが天井装飾の工事となります。写真にあるように大きな足場を場内に組んで、115年前の開館以来、一度も手を加えられることのなかったこの装飾について修繕を施す機会となります。意匠には全く変更を加えることはないのですが、内部からしっかりと支える補強を行い、今後も維持していけるような措置を施します。このほかにも、(ところどころ部分的に改装が行われている館内にあって)明治期の建造以来そのままの古い部分も修繕の対象となっています。面白いのは、なるべく当時の資材をそのまま使うということで、例えば崩落しかかっていた壁面に使われていた木材は一旦外した上で、また組み直して再利用される点です。そのあたり高田世界館が文化財ということで相応の配慮がなされています。
私がこの映画館で働くようになってから、今年で12年目になります。NPOとしての体制が始まってからは17年目です。115年という建物の歴史の中で、私たちが関与している時間も、少しずつ長くなってきました。見方を変えれば、私たちも歴史の一部になりつつある。日々営業しながら、ふと、そう感じることがあります。
話は変わりますが、私には8歳になる娘がいます。彼女は3歳の頃からピアノを続けているのですが、なかなかうまくいかなくて、泣きながら練習してきました。ちょっと彼女には酷だなと思いつつも、それでも5年間続けてきたということになります。
本当にすごいなと思うのが、そうやって嫌々ながらでもずっと続けてきた結果、最近は見違えるようにピアノの指の運びが上手になってきて、スラスラと弾けるようになってきたのです。彼女自身も自信を持つようになって、前向きな気持ちでピアノと向き合っているようになっている様が伺えます。
言葉で言うには簡単ですが、継続の力というか、コツコツとやることの大切さというのに気づかされ、ハッとした瞬間でもありました。
現実には、それでも結果が伴わない場面も多々あるとは思います。映画館のことで言えば、12年前に比べたら確かに驚くべき進歩があったと思います。現在こうして全国のミニシアターの並びに名を連ねるような映画館として成長するとは誰が予想していたでしょうか?
ただここ数年で言えば、年間来場者の伸びも落ち着いてきていて(昨年は前年割れでした)、前進はしているんでしょうけれども、なかなか大きな変化も感じづらくなってきているような状況です。
子どもの成長であれば1年、2年というのは大きな進歩が見られるタイミングでありますけれども、この映画館の運営というのは、1年、2年といったスパンではなくて、もう少し広いスパンで、俯瞰的な視点で見通すことが大事なのかもしれません。それをわかってはいるのですが、私自身としてはこの映画館をもう少ししっかりとした体制にしたい、もっとお客さんに来てもらいたい、設備ももう少し良くしたい、スタッフも増やしたい、そう思う中で現在のこの状況というのは、足踏みしているようにも感じられるのです。正直に言えば、焦りを感じているのだと思います。頑張って売り上げを増やしても、またこうして工事でお金が消えていってしまうわけですから。
そんな燻りを抱えながら今回の工事期間に入ったわけですが、休館前のタイミングでお客様が映画を観に来がてらすっと支援のお金を差し出してくださる、そんな場面がありました。それも一人ではなく何人も。まだ大々的に支援の呼びかけをする前にも関わらず、です。高田世界館として営業を再開した初期の頃から通ってくださっている地域の方もいれば、名前は知らないけれど、顔は何度も見たことのある馴染みの方など、多くはシニア世代の方々でしたが、この10年余りの仕事そのものを、静かに肯定してもらえたようにも感じられました。
年末年始はそうした方々と挨拶を交わす機会でもありました。一般的な映画館であれば、「いらっしゃいませ」「ご来場ありがとうございます」くらいの言葉で終始する場面かと思いますが、この劇場では「今年も一年ありがとうございました。たくさん通ってくださいましたね」「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」とお互いに労いながら言い合える関係性があります。こうした方々に高田世界館は支えられてきたのです。
支配人として、表に出ない事務作業やお金回りの業務も増えてきましたし、窓口をスタッフやアルバイトに任せる場面も多くなってきました。
それでも、昔から通ってくださるなじみの方々との触れ合いというのは、やはりかけがえのないもので、時間の流れや、時間の厚みのようなものを感じられる瞬間でもあります。
前に前に進みたい。
そんな焦燥感がある一方で、映画館が保持してきた時間の積み重なりに身を委ねられる安心感というのも、同時に存在しています。
それを象徴するのが(今回の工事で修繕される)天井装飾なのかなと思います。
いつまでも変わらず、静かに上から見守り続けてくれるもの。
変わらず居続けるもの。ロビーの空気や、柱や壁に残る染みも含めて。
工事の合間に、静まり返った場内のシートに座ってみると、目の前の黒いプレートが目に留まりました。それは15年以上前、椅子のリニューアル工事を行った際に広く寄付を募った時のもので、プレートには寄付者の名前が刻まれています。座席数も多く、全容を把握できていないままになっていたのですが、たまたま目にしたそのプレートには今でもお世話になっている、地域の見知った方々のお名前が入っていました。
ああ、気づかなかったけど、ずっと前から見守ってくれていたんだ。そういう不思議な感慨を覚えたひとときでした。
時に前のめりになりつつも、一旦座って周りや足元を見たりしてみる。
こうした時間軸や関係性を肌身に感じながら、映画館の未来を見据えていければと考えております。
☆高田世界館では現在修繕プロジェクトを実施中です。詳細はHPへ

高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/









