新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
先日、何の気なしにテレビをつけていた時のことですが、スペイン・マドリードで名物店主が切り盛りしているバールが取り上げられていました。盛りだくさんのタパス=おつまみが売りのそのお店は(なんとお酒を頼めばタパスが無料!すごい!)、料理以上に店主のおじさんが名物。店主は常連から若者までたくさんのお客さんで賑わうホールを行ったり来たりで大忙し。お客さんに顔を出しては冗談を言ったり料理をオマケで出したりしていて、自分の仕事を愛しているとともにお客さんからも愛されている様が伝わってきてとても印象的でした。行きたいぜ、スペイン!オーレ!
「こんなお店が近くにあるといいな〜」と思いつつ、それから数日後にたまたま入った食堂。
・・・いました、高田にも名物店主が。メディア掲載お断りのお店なので店名は出せないのですが、地元の住民が足繁く通うこの老舗食堂にはお昼時はひっきりなしにお客さんが訪れ、それぞれがお気に入りのメニューを楽しんでいます。その店主(もしくは共同オーナー)のおじさんはテーブルにつくといつもお茶とともに突き出しのお菓子を置いてくれるのですが、その日、頼んだメニューの提供に時間がかかっていると見るや(季節商品の鍋焼きうどんのオーダーが重なったのでしょう!)、すかさず奥から小鉢をサービスで出してきてくれました。こちらは全然気にしてなかったのですが、その気遣いは素晴らしいなと思いました。地元で愛される食堂の呼吸感を感じるひとときでした。
そう思うとマドリードで見たあの名物店主が重なってくるではありませんか。ラテンの熱いノリこそ感じはしないものの、高田のおじさんも決して負けてはいません。お客さんの様子を伺いながら狭いテーブルの間を縫ってお茶のおかわりを出したりしているその姿はまさにあのバール!地域に根差し、長年続けてきたからこそ醸成される温もりのある空間。これはまさしく無形文化財でしょう!(お店は有形ですが)
こうしたお店が身近にあることに感謝したいものですね。
別のお店ですが、先月に私が小さい頃から通っていた食堂が突然閉まってしまいました(一応は休業とのことですがどうなるかはわかりません)。暖簾をくぐるお客さんたちの姿を含め、高田の街の空気と一体になっていたこのお店もまた、無形文化財のような食堂でした。長年使われて古びたガラスのコップさえ愛おしさを感じるほどでした。
なくなってしまう時は本当にあっという間です。お店のご事情もさることながら、今年に入って正月の地震や高田の本町通りで立て続けに起きている建物火災のことも考えるにつけ、決して今あるもの・風景は当然のものではないのだなとまざまざと感じる次第です。別れに備えて心せよ、ということでもないのですが、やはり大事にできる時に大事にしたいものです。特に高田のお店は個人経営でやられているお店も多いのでなおさらです。
さて無形文化財になりたいナンバーワンの私ども高田世界館ですが(すでに有形文化財であろうというツッコミはさておき)、先月末に晴れてクラウドファンディングを成功裡に終えることができました!
これもひとえに地域の、ひいては日本の文化としてこの映画館を残したい・大事にしたいという皆様の応援あってこそのことでした。この場を借りて感謝申し上げます。
まだまだ受難は続きそうですが(原稿を書いている時点で新たな出費が判明しました・・・)、マドリードのバールの店主の如く、誇りと明るさを持ってやっていけたらと思います。
今後とも何卒ご愛顧のほどよろしくお願いいたします!
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。