
新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
嬉しいニュースです。以前コラムにも書かせていただいた町の食堂が、休業期間を経て再開しました。色々な事情を耳にしていたので心配していたのですが、ひとまず安心しました。今のところ昼のみの営業ですが、時間がある時に駆けつけたいと思います。
さてその一方で悲しいニュースが。ついこの間のことですが、映画館でも懇意にさせていただいているパン屋さんの閉店の報を聞きました。
当然のものとしてあったので、「パン屋ってなくなるんだ」と素朴に思いつつも衝撃を受けました。もちろん少し車を走らせればまだ別のパン屋さんがあるわけですが、私としては「パン屋さん」は近くにあるもので、忙しい通勤前に駆け込んだり、小腹が空いた午後にふらりと立ち寄ったりするもので、それこそインフラと言ってもいいような位置付けのように思います。
お店によって色々と事情は異なるのでしょうが、近年、高田のパン屋さんが一軒また一軒と減っているのは寂しい限りです。
今であれば原材料費の高騰の影響も直に受けることでしょうし、庶民に親しまれる商品にあって、すぐに販売価格に転嫁することも難しいでしょう。あのトレーとトングを握って親しんだ街のパン屋さんという業態は、なかなか厳しい時代なのかもしれません。
そもそもパン屋だけでなく、そのほかのジャンルでもそうなのではないかと思いますが、価格を抑えた定番商品というので商売がしにくくなっているのではないかと思います。ラーメンであれば1000円の壁を超えるかどうかというのが話題になったりしますが、これだけコンビニ食やらテイクアウトやらのサービスが充実した(味もなかなか!)時代にあって、ほどほどのものというのがそうしたものに取って代わられるという現実があります。
よっぽど出入りが激しいビジネス街なら別として、今の地方の住宅街のようなエリアでは単価を下げて数を出す、ということは難しく、基本的にはクオリティを上げるなり付加価値をつけて単価を上げていかなければならないであろうことは素人目線でも自明のことかと思われます。(映画館も同様に配信サービスの充実を例に出すまでもなく、いかに映画館での体験を充実させるかなどの対策が求められています。)
とはいえ身の回りにあるものが全て高級志向なものになってしまったら息苦しくなってしまいます。また逆にそれを避けるために安価なチェーン店だけに足を運ぶというのも味気ない感じがします。今となってはもはや贅沢な悩みになってしまうのかもしれませんが、気取らない定番なものを出し続けるお店が近くにあることは、とても恵まれた環境といえるのかもしれません。
高田という街のいいところは、それでもまだそうしたお店がいくつも残っているところです。スペシャルというわけじゃないけれど、ちょうどいいさじ加減のお店。チェーン店に慣れてしまった私たちにとってはちょっと入りづらいかもしれないけれど、一度入れば親しみがあって落ち着くところ。そうしたお店が街のあちこちに残っていて、それが豊かな街路を形成しています。
さて、こんなことをつらつらと考えたりしつつ、映画館の近くを歩いていたある日のことです。
川沿いの雁木通りに踏み入れたら、甘さと香ばしさが混じったあのパン屋さんのいい匂いがフワッと漂ってきたではありませんか。「あれ?ここでそんな香りがしたっけな?」と新鮮に感じたその目線の先には、2年前にできた人気のベーグル屋さん。ベーグルもパンなのでその香りが漂って当然でもあるのですが、こちらのお店はいわゆる定番とは一線を画すこだわりのお店。生地も歯応えがしっかりしていてベーグル好きにはたまらない食感です。どれも美味しそうなのであれこれトレーに乗せるとあっという間にお小遣いの限度を超えてしまうのですが(笑)、それも納得の品質です。懐かしさすらも混じるあのパン屋の香りが漂うことを新鮮に感じたというのも、(失礼を承知で言えば)いわゆる街のパン屋さんとは別物、という潜在意識があったのかもしれません。
街の風景は刻々と変わっていくことと思いますし、同じままではいられないのでしょう。かつてのようなオールラウンダーなパン屋さんというのは減っていくのかもしれませんが、こうした小気味いいセンスであちこちからお客さんを集めるような、個性的なお店が今後の高田の街を彩っていくのかもしれませんね。
映画館もいまだにどういうスタンスで街にあり続けるのかということに悩んだりもしています。現実問題として近場のお客様だけでは成り立たないというのがわかっているわけですから、良きにつけ悪しきにつけどうしてもアクが強いものも入れざるを得ません。「普通であり続ける」ことはとても難しいのです。
それこそメロンパンやチョココロネのような親しみやすいものに混じって、ちょっとパンチの効いたスパイシーなチリドッグをも入れるような感じでしょうか。

今や定番化した?インド映画(『ジャワーン』3/15より)
尖らせれば尖らせるほど、近隣に住む方々の来場者は減り、逆に県内ではなかなかやらない作品だと言うことで、地域外からの来場が増えるということもあります。さじ加減が本当に難しいところではありますが、そうした出し入れをしながらお客さんとの間合いを図りつつ作品を選定しております。
ちなみにこの原稿を書いている最中に地元の小学生の見学を受け入れていたのですが、その時に「また映画館に来てみてくださいね〜!」と伝えつつも言葉の裏で(いったい何を観に来るというのだ・・・)と思ったりもしました。自虐半分ですが、一方でそれを喜んでくれる人たちがいるのも事実です。
遠くの映画ファンの方からは「一日中いたくなるラインナップ」「こんな映画館が近くにあったら絶対通う」と言っていただくことは多いのですが(大変励みになります!)、この辺りは本当に悩ましいところです。売上と客層のバランスとでもいうのでしょうか。
まだまだ街に馴染むことは難しいですね。昨日また「今月は難しい作品が多くて・・・(だから行けてない)」とお客さんに言われました(笑)。日々精進です!
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/