新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
先月のことですが、高田世界館からも程近いライブハウスEARTHにて開催された音楽イベントに参加してきました。
本当に怠惰ながらここ数年は映画館にこもりっきりなので(以前はもっとフットワークが軽かったのに!)なかなか外のイベントに出向くことは叶わなかったのですが、久しぶりに大いに楽しむことができました。
参加したのは地元上越のヘビーメタルのバンドのライブ。最前列で迫力ある演奏を浴びてきたのですが、年甲斐もなく頭を振ったおかげでむち打ちになるというおまけ付きでございました…。
やはり目の前で味わうパフォーマンスの臨場感、大きなスピーカーから出る迫力ある音圧というのは格別なものがありますね。
プロジェクターを持ち込み仮のスクリーンを張ればどこでも“映画”が生まれるように、音楽ライブも機材さえあればどこでも開催できるようなものなのでしょう。ライブハウスに限定しなければ、市内のあちこちで毎週のように音楽を聴くことができます。野外のライブも開放感があって楽しいことでしょう。
その一方で、ライブハウスのように常設の施設を街が有しているということは特別な意味があることと思います。やはりそれが文化として紡がれていくためには場所性や、通ったりすることの継続性というのが必要になってくるのではないかと思う次第です。
今やメジャーアーティストとして全国で有名になった上越出身のロックバンド・My Hair is Badがまさにこのライブハウス文化の中で生まれてきたという事実は、もっと強調してもいいのかもしれません。
ただ、場所を維持することの難しさというのは映画館も痛切に感じていることですから、その苦労や努力は推して知るべしです。コロナ禍の苦境もさることながらシーンの流行り廃りというのも街の趨勢の中であるでしょうから、なかなか一筋縄では行かないのではないかと思います。
さて、そうした動きの中で惜しくも上越からなくなってしまった施設の一つに、DJイベントを行うクラブがあります。ドンツクドンツク響かせながら体を揺らすような場所です。独身時代には私もイベントがあれば赴いたりしました。
DIY精神と機材さえあればどこにでもクラブ空間にできるわけですし、今も時折小さな空間で散発的なイベントが開催されたりしますが、ちょっと背伸びをして、あの独特な雰囲気のもと暗い空間に身を潜り込ませるスリリングな快感はあのクラブという場所だからこそ味わえるものだったと思います。ややヤンチャなカルチャーではあると思いますが、私も大いにスパークしたものです(詳細は省きます笑)。
世界館でも地元の音楽シーンに向けて何かできないかと、というか私自身が外に出向けないのなら自分のとこでやってしまおう!という思いで、去年「Disco Monde」という名のDJイベントを企画したことがありました。
クラブのあの雰囲気は到底出せないんですけれど、妖しさと健全さの狭間で映画館ならではの面白い一面も引き出せるのではないかなと期待をかけたイベントでもありました。
結果としては、まあまあといった感じ。DJブース以外にも飲食店の出店があって賑やかではありましたが、欲を言えばもう少しお客さんが来てほしかったです!映画館でDJイベントという宣伝の難しさもあったかと思います。大きなスクリーンがあることでVJ(DJが繰り出す音楽に合わせて映像をリアルタイムで変化させていく演出)は映えるのですが、やはり広すぎる空間がやや収まりが悪かったり、クラブと違って座席が備え付けられていることもしっくりこなかったというのもあるのかもしれません。
ただ、普段映画館に来ない人たちや、音楽(と酒)に釣られて顔を出してくれた若者たちの姿を見て嬉しくなりましたね。ああ、年長者の自分が下の世代にちゃんと遊ぶ場所を提供してあげないとな、と思いました。かつての私が求めていたように。
収益性のこととか、反響の静けさとか、そうした難しさはあるのですが、それを押してでも進めなきゃなとは思っています。
日々の忙しさに流されてしまってつい忘れてしまうのですが、まだまだいろんな人を集める空間としてやれることはあると思いますし、もっと高田世界館の可能性を開いてあげてもいいのかもな、と思います。色んなジャンルや人をまるっと飲み込むような、懐の深い空間というわけですね。
個人的な思いとしては、映画だけを観ればいいってわけでもないと思っています。本を読んだり、たまには演劇を観たり音楽にも触れたりすることのほうが、むしろ映画の奥深さに触れることにつながったりもします。それぞれの境界をもっと薄くしてもいいと。
高田世界館がその境界を下げるような役割を少しでも果たすことができれば嬉しいなと思います。
来月はジャズのイベントに南インド古典音楽公演に、そして毎年恒例のピーター・バラカンさんによる出前DJも控えています。芸術の秋とはよく言ったものですが、色んなことに飛び込んで新しい世界が開くような秋にしていただけたらと思います。
詳細はこちら https://takadasekaikan.com/archives/22670
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/








