新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
1月から続いた大規模改修工事もまもなく完了し、今は劇場再開のための準備でワタワタとしています。休館明けの上映作品も続々と決まり、次から次へと押し寄せる作業のサイクルに映画館としての日常を感じつつあります。(さよなら、ゆったりと一つの作業に向き合えた日々・・・!!)
今回の修繕プロジェクトに対しては、(全国の映画ファン含め)多くの方々からご期待と”多大なる”ご支援を寄せていただいております。肩身に大きなプレッシャーがのしかかるのを感じておりますが、休み明けで緩んだ気持ちを引き締めるのにはいいのかもしれません(笑)
さて工事期間としては2カ月近くあったわけですが、終わりを迎えるとなると、妙なようですが寂しさのような感慨も覚えるものです。
工事に対して受動的なスタンスであれば、業者さんに任せて、ガーッとやってきてバーッと作業して去っていく、という行程に身を委ねればいいのかもしれません。ですが、いざ工事が始まってみると自分が想定していたよりも工事に巻き込まれていく自分がいました。壁の塗料の色味だとか仕上がりの吟味などにも関わったこともそうですし、映画館が変わっていく様にハラハラするなど精神的にも引っ張られていきました。自分がその変化の当事者であるということを突きつけられた期間でもありました。こちらからの発注一つで業者が動き、大きく建物を変えていくわけですから、歴史を変えてしまうかもしれないという恐ろしさのようなものも感じました。その重大さに気づいたのが実際の作業を目にしてから、というからお粗末なようにも感じます。
工事に入ってから最も心を揺さぶられたのが、高田世界館の象徴である天井装飾の修繕に入ってからです。ホールに組んだ足場を上って、漆喰塗りの大きな装飾を間近で見た時、震えました。今まで遠くから憧憬も込めて眺めていたものが眼前に現れた瞬間。「触れられざるもの」に触れた瞬間。それは、畏怖の念からくる震えだったと思います。
亀裂も入ったこの部位を修繕するために各地から集まった(研究機関含む)専門家チームが現場に入った時、文化財修繕の色合いが一気に濃くなるのを感じました。また、それに伴い私自身の関与の度合いも強まっていきました。
その工程の中で、私自身、天井裏に上がる機会を得ました。覗いたことはあっても、足を踏み入れるのは初めてのことです。脚立を上り、三角形に組まれた木の骨組みを身をよじりながらくぐり、その奥へと進みました。
そこには、115年前に建てられた当時のままの空気感(と構造)をパッケージした、なんとも不思議な空間があったのでした。館内のあちこちが改修を重ねるなかで、この場所だけは手つかずのまま残っていました。
まるで真っ暗な深海を探索するような心持ちで天井裏をウロウロとしていたのですが、その中で、資料も残っておらず長らく確証が持てずにいた天井装飾の照明(シャンデリアがかかっていたとされている)の痕跡も見つかるなどし、建物の謎を明かす鍵を見つけたような体験をいくつもすることとなりました。
中でも、私がその時間の厚みに呆然したのが、上棟式の際に捧げられた棟札を見つけた時です。「明治四十四年六月七日吉祥日」と記されており、その裏には神々の名が筆で書かれていました。115年という数字はこれまでも口にしてきましたが、その年月が具体的な形となって目の前に現れたとき、しばし言葉を失いました。普段は新しい作品を上映し、日々の営業に追われるなかで、なかなか触れることのない時間軸が、すぐそこにあったのです。
普段見えない、裏側の構造を垣間見たり、象徴に(文字通り)触れたりするという、ふだん決してできない建築との濃密な対話に、クラクラしそうになった期間でした。
実は、今回の工事の中で建物の一部分に偶発的に意図しない変更を加えてしまい、しばらくショックでうなされるほどだったのですが(最終的には大きな事態には至りませんでした)、そうした気分の乱高下がまさか工事で起こるとは全く予期せず、これはまさに高田世界館という建築の魔力に引き込まれたのかなと思います。その歴史の中で変化を生んでしまったことで、逆に責任感というか、愛着もより強くなったと思います。
いつも一緒にいてなんでも知った気になっていましたが、まだまだ掘り下げるところの多い(しかも手のかかる!笑)建物だなあと思います。
いよいよ劇場の再オープンが近づいてまいりました。
今回の工事では、館内のひびや亀裂を補修し、壁や柱の塗装も塗り直しました。大きく意匠を変えるものではありませんが、仕上がった空間は、以前とは少し違う空気をまとっています。まだ見慣れない部分もあるかもしれませんが、ぜひ皆さんとともにこの歴史の上に加えられた新たな風景を分かち合っていければと思っております。
※アイキャッチ写真 かつて設置されていたステージ両脇の照明が再び灯り、明るくなった舞台
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/






