新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
2カ月に渡る改修工事が終わり、早くも再開から1カ月が経ちました。映画館は少しずつ日常の風景に戻ってきました。冒頭の写真は開館後のものとなりますが、常連さんたちのロビーでの会話に花が咲くのを見ると、「ああ、戻ってきたな」と思います。
ただ、思ったほどには来場者数が伸びない現実もこれまた日常でもありまして(笑)、引き続き営業に精進する日々です。
さて高田世界館ではそうした寂しい入りの時に「貸し切り鑑賞」(場内に一人もしくは1組だけ)になることも多く、上映後にお客様から「贅沢に見させていただきました・・」と恐縮される場面がよくあります。恐縮されるならまだいい方で、人によってはギョッと感じたり、「なんだか怖いからやめとくわ」と帰っていった、なんてことも過去にありました。
映画館というのは不思議な空間ですね。ただ映画が上映されているだけなのに、一人になるとその空間に対して恐怖や居心地の悪さを感じる。家の中で配信で見るなら一人でいいのに、映画館だと他人の存在を求めてしまう。逆に大勢の人がいたらいたで、(主に鑑賞マナーの関係で)疎ましく思うこともあるくらいなのに。
私たち高田世界館スタッフは、終映後の夜中にスクリーンで試写をすることが多いのですが、先日スタッフが3時間ある映画を映画館で一人で試写したそうで、なんとなく寂しさもあって、自分自身に気合を入れないと映画に入り込めなかった、ということがありました。
私はもう慣れっこではありますが、なんとなくわかる気がします。一人だと、家で観るときみたいなだらっとしたリズムになってしまいます。一度、“貸切”になったお客様が集中力を切らしてスマホを上映中にずっといじっている、なんて場面に出くわしたこともありました。
でも、例えばそこに誰かがもう一人いるだけで、1が2になるだけで、急に共通の時間が生まれます。そこで社会が立ち上がるというか、共同性が生まれるような気がします。ある種の軽い束縛みたいなものが、映画への集中力だとか、映画にコミットする力を引き出してくれる——
映画館で映画を観るというのは、そもそもがとても不便な営みです。まずお金がかかります。サブスクの時代にあって、安くはないです。上映時間も決まっていて、それに自分を合わせなければなりません。さらにわざわざ出掛けていかないと観られない。車で30分かけて行かなきゃいけない場合もあります。でも、そういう不便さを受け入れることで、映画と向き合える態勢が生まれるのかもしれません。
先日、子どもと一緒に子ども向けの映画を観に行きました。場内には10組ほどの親子連れがいたでしょうか——まじまじと見回したわけではないので、ざわめきからくる体感ですが。映画の中でクイズのコーナーがあって、スクリーンの中のキャラクターが「せーので答えてね!」と観客に向かって言うわけです。みんなで声を出し合う。後ろの方で誰かがとんちんかんなことを言って、近くの親子の笑いを誘ったりする。クラス会みたいに机を突き合わせてお互いの顔を見ているわけでもなく、名前も知らない。でも、その一瞬だけ、場内にほんの刹那の社会性みたいなものが生まれていました。で、映画が終わったら、またバラけていく。まさしく映画館ならではの光景だなあと思います。
(リアルタイムで感想を投稿していく)SNSでの実況視聴とか、同時再生祭りみたいなものも、結局は「一緒に観ている」という担保というか、相互承認への欲求なのだと思います。僕はああいうのが苦手で——映画からメタな距離を置いて観ているような感じがして——でも、求めているものの根っこは映画館と同じかもしれません。ただ映画館の場合は、顔も見ず声も交わさず、ただ同じスクリーンに向かっている。コメディのシーンで誰かがクスッと笑う、その気配を感じながら観ている。そういう人の肌感みたいなものを、実は求めているんじゃないかと思います。
共同性を通して映画を観る。逆に言えば、共同性を通さないと映画を観られない、ということでもあるのかもしれません。
かくいう私も、一人で試写をすることに慣れていると言いましたが、実はお客様と同じ空間で観ることに「ご褒美」のような喜びを感じてたりもしています。
高田世界館でたまに開催するオールナイト上映は、その最たるものかもしれません。3本目ともなると眠くなってきますが、周りに人がいることで奮起する、ということがあります。一緒に朝を迎えたら、もはや共に闘った同志みたいな連帯感が生まれたりもします(笑)。
オールナイトならではのマジカルな時間というのが夜も更けると下りてくるのですが、その特別な空気感に、映画館で観ることの醍醐味が詰まっていると毎回感じます。1回1回が武勇伝、語り草となる。ちょっと寝落ちたりしているはずなのに経験としての濃度がケタ違いなんですよね。またやりたいなあ、オールナイト。
2年間にわたる本コラム掲載は、今回をもって終了となります。これまでお読みくださった皆様、ありがとうございました!
このコラムを通じて、高田世界館および映画館に興味を持っていただけたとしたら、この上ない喜びです。それではまた劇場でお会いしましょう!
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/
上野迪音さんのコラムは最終回となります。ご愛読ありがとうございました!







