新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。
6月も下旬になりました。気候はじわじわと暑くなってきましたが、高田世界館では例年、この時期はエアコンなしでヒンヤリと涼しい館内で過ごすことができます。天井が高く広い空間のおかげで、夜間の冷たい空気が留まるからなのだと思いますが、個人的にも好きな時期です。ただここ数年は温暖化の本領発揮という感じで気温も一気に高くなり、この快適な時期もあっという間に終わってしまうように感じます。そうなるとエアコンの出番です。安心してください、ちゃんとありますから!(笑)
脱線しますが、古い(ボロい)映画館だと思われているとお客さんから温かい目で見られることも多く 、「古い映画館だし、まぁ 多少のことは仕方ないだろう」みたいな風に思われている節もあります。 お客様に甘えてばかりいるわけにもいかないのですが、しかしながら現実としてどうにもならない部分もありまして、木造建築がゆえの冬場の冷え込みだとか、 椅子のクッションの薄さだとかそういったことに関しては寛大に見ていただけているような気もしております。( 皆様、ご迷惑をおかけしております!)
レトロな魅力と、快適な空間。その両立はなかなか難しかったりしますが、高田世界館では他の劇場では見られないラインナップの映画がかかることも多く、映画好きにとっては貴重な空間として大切にしていただいております。
温かい目で見てもらうといえば、かつては機材が古いこともあって上映の途中でフィルム映写機が途中で止まってしまうこともあったりしましたが、「それも味わい」とか「逆にスリリングで良かった」みたいなふうにも言われることがありました。映写トラブルを起こして映写室から飛び出してお客様に謝るなんてこともありましたが、そんなお客様のポジティブさに助けられました(笑)
とはいえ 毎回毎回そうも言っていられないわけでして、 ちゃんと映画を見せ切る、ちゃんと映画の世界に浸れるというのが保証されないといけません。だって映画館ですから。 毎回そんなアトラクションのように皆様にヒヤヒヤさせるなんてことはあってはならないと思います。
さて現在はデジタル上映が主流の時代です。 それまでは古い映写機にフィルムをセットして上映を行っておりましたが、 高田世界館では数年前にデジタル映写機を導入し、現在は ほぼ自動かつワンタッチで全てが済みます。 現行の上映方式になってからは上映のトラブルは格段に減り、安定した形で映画をお見せできております。この新しい機材のおかげで最新の映画も上映することが可能になり(海外のメジャーな作品も!)、鑑賞体験としても他の映画館と遜色のないレベルにまで引き上げることができました。
なんと、いいことだらけですね!
しかしながらこのデジタル映写機はとてもとてもお高い機材でして、この映画館の中で一番高価な設備となっております。そして最大の問題は、この機械は10年に1回の頻度でまるっと交換しなければならないということです。逆にフィルム映写機は手入れさえすれば何十年も持つということは、この映画館が証明しているところでありますが、数百万円から1千万円近くかかるこのデジタル機材を入れなければほとんどの映画は上映できなくなり、それゆえに設備更新をしないという選択肢は映画館にはないのです。
この10年に一度やってくる設備更新の圧力が、いま高田世界館をはじめミニシアターの存在を揺るがす大きな問題となっております。その話はまた次回に……
高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。