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2024.09.23 special

手探りの10年 時流に乗らない鷹揚さはきっと誰かの拠り所に

エリア

上越

新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。


高田世界館。今年で築113年になる映画館ですが、前のオーナーから引き継いで現体制になってからは15年と比較的新しい経営体です。
また、今のような一般の映画を複数作品、それを毎日のように上映するようになったのが、私が関わるようになってから、つまり10年前からということになりますので、映画館としても新しいと言えます。

私が来た当時はイベントなどの貸館としての営業に比重が置かれていたため、決まった上映プログラムはなく、映画館としてはほぼまっさらな状態でした。
そこから今のような体制になるまで、手探りで積み上げていくというなかなか珍しい経験をさせていただきました。

決め事も何もない中で映画上映を企画していくわけですが、どんな作品がいいのか、どんなふうに上映時間を設定するか、何日上映するか、また料金はどうするのか、そもそもどこに連絡するのか、などなど、 あらゆることに悩みながら、そしてつまずきながら一つ一つ進めてきました。

こうしたことはまず初めにしっかりとした経営戦略なりグランドデザインなりがあった上で進められたらよかったのかもしれませんが、どういう風な建て付けになるか誰にも見当がつかないまま、かなりふわっとした状態で走り出していったような気がします。

今はようやく「映画館らしく」なったような気がしますが、その当時は手作り感たっぷりで素人っぽさがダダ漏れだったことと思います。(そんな中、かける映画を提供してくださった配給会社の皆様、大変お世話になりました!)

さて映画館の中身を形作るにあたって他の劇場の事例を参考にしたりもしましたが、今でもやはり影響を受けていると言えるのは新潟市のシネ・ウインドと長野市の長野相生座・ロキシーです。口に出したりはしないのですが、自分で勝手に高田世界館はその両館の嫡子であると思ったりしております()

シネ・ウインドについてはまもなく設立50周年を迎えようかというミニシアターの偉大なる先達であり、単なる映画館としてはひとくくりにできないような多様な運動体としてある特別な存在です。
私自身も学生時代にシネ・ウインドでお手伝いをする機会を得ましたが、そこでの体験は今でも立ち返るべきものとして胸の中に残っています。

雑誌を作る人たちや上映プログラムを検討する人たちなど、いろんな人の出入りも多い映画館で、高田世界館もそんな場所を目指せればいいのですが、なかなか実現できていないというのが現状です。

そしてもう一方の長野相生座・ロキシー。長野・善光寺の門前町にあって100年以上に渡り営業し続けてきた本当の老舗映画館です。高田世界館とはまた違ったノスタルジックな風格はもとより、決して大上段に構えるでもなく自然な形で街に根付いている姿に感動を覚えます。

いわゆるミニシアターでは館内でお菓子を食べたりすることは御法度だったりするものですから、売店にお菓子が並んでいる様には痛快なものがありました。ビールも売っているのがいいですね!()

映画は娯楽なのか、文化なのか、(そううまく分けられるものではありませんが)。ミニシアターは後者を身にまとう場面も多いかと思いますが、ロキシーにはそのおおらかさでもってその分類を飲み込んでしまうかのようです。その包容力というのは、やはり古さ(歴史の厚み)・レトロさからくるのかと思いますが、映画館としての懐の深さというものを教えてくれるように思います。高田世界館がミニシアターとして形態が定まっていく前に見ておいてよかったなと強く思います。

まだまだ高田世界館も発展の途上にあり、あるべき姿を模索しつつ今後も変化していくことと思います。

一方で映画館をめぐる状況は時代とともに徐々にシステマチックになり、効率的になっていきつつあります。かつては一度チケットを買えば1日中いられるものだったのが、その後上映ごとに退出する入れ替え制となり、また自由席が指定席になったり、それに伴いネット予約もできるようになったりと、劇場側の論理だけでなく観客側の利便性も絡んで変化していっています。

時代の趨勢の中でそれは不可逆な変化だったりするのですが、レトロさを拠り所にした大らかな部分(あるいは曖昧な部分)というのは切り捨てずに残していければなと考えている次第です。どこかでそれは、誰かの心の支えになるような気がしています。

高田世界館もいい意味で効率よく運営ができるようになってきましたが、よくわからなかったからこそ発生していた余剰部分というのは少なくなってきたかもしれません。以前は手書きの新聞がボランティアスタッフによって発行されていたのが懐かしく思い返されます。

今のようにスタッフが脇を固めていなかった頃は、手が回らずにボランティアの方々が大きな支えとなっていた時期もありました。隙があったり、人手が足りなかったりする時こそむしろ他者との関わりしろがあったりするものですが、そのあたりまた改めて揺り戻しの時機がきてもいいのかなとも思っています。

持ち込み企画でも大歓迎ですが、何か関わってみたいとか、高田世界館の活動にビビッときた方はお気軽にお声がけください。

 さて、7月から始めていたクラウドファンディングも目標額を達成し(引き続きネクストゴールに向けてご支援受付中です!)、まだしばらくは映画館として続けていけそうです。
「街の名物」として定着していけるよう、皆様からのご支援を追い風にしてスタッフともども引き続き頑張ってまいりたいと思います!

☆クラウドファンディング実施中!ネクストゴールに向けてご支援をお願いいたします!
https://motion-gallery.net/projects/takadasekaikan-next


高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。

高田世界館 http://takadasekaikan.com/