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2025.06.23 special

変わりゆく高田の街角 新たな営み 随所に、着実に

エリア

上越

新潟県上越市高田地区に現存する日本最古級の映画館「高田世界館」。動画配信全盛の現代にあって、映画館を盛り立てようと日々奮闘する支配人の上野迪音さんに、映画の楽しみ方を教えていただきます。


高田世界館を運営するようになって10年ほどが経ちました。この10年の中で私も街も様々な変化がありました。

私はと言えば、当初まちづくりをやりたいと思ってこの地域に足を踏み入れ、学生時代から高田のまちづくりの会合に顔を出したり、雁木通りの将来像などを思い描いたりしておりました。Uターンで戻ってきて映画館を運営するようになってからも、(映画を学んでいた出自とはまた別に)そうした視点を持ち続けておりました。

その一方で、まちづくり団体の諸先輩がたの中にあって、若い世代で同じ方向を見据え、共に手を取り合うような仲間は少なくとも当時の私の周囲には見当たりませんでした。孤軍奮闘という色合いが濃く、私個人としては寂しく感じていたように思います。

まちづくりの会合にて活動紹介を行う(2015年)

当時の私の考えとしては「映画館」と「まちづくり」の両輪で動いていくんだ、という理想がありました。映画館の運営をやりつつも、サブ活動としてのまちづくり(特に、雁木町家の活用)を行うという時期が続くわけですが、そのうちにやはり本業が忙しくなり、映画館としての活動に収斂(しゅうれん)していく、洗練させていく過程を辿ることになりました。言い換えれば、地域の方に向くのではなく、映画の方に向かっていった。その背景には、コロナ禍による切羽詰まった状況のなかで、自らの収益事業に目を向けざるを得なかったという事情もあると思います。それはそれで、映画館にとって必要な過程だったとも感じています。

雁木町家を活用した8ミリフィルムの上映会(2019年)

さて、そうして映画館が内向きになるなかで、気づけば月日が経ち、町のほうにも変化が訪れていました。これまで少ないと思われていた「まちづくり」のプレイヤーたちが、続々と現れるようになっていたのです(なお、必ずしも彼らがまちづくりを自負しているわけではないので、ここではあくまでカギカッコ付きの「まちづくり」としておきます)。

彼らはそれぞれ異なる出自を持ち、同じ旗印のもとに集まっているわけではありません。ただ、高田という町の面白さに引き寄せられ、店を開いたり、活動を始めたりしているのです。

駅から高田世界館を越えてさらに進んだところにできた「たてよこ書店」(写真提供:同店)

私のような高田で生まれ育った人間が、この街で何か盛り上げようと活動するというのは、ある意味では順当な選択です。しかし、今この町に集まり始めている人たちは必ずしもそうではない。地域に寄与したいとかそういう動機ではなく、純粋に高田という場所に価値や面白さを見出している。その視点が、とても興味深く思えます。

彼らが注目するのは、上越という広域の行政単位ではなく、もっと局所的な「高田」という具体性のある空間。あるいはストリートと呼んでもいいかもしれません。高田的なるもの、高田らしさ、そうした空気に価値を、もっと言えば未来の可能性を見出している若い人たちがいる。その姿は、かつての自分自身と重なるところがあります。

高田世界館からすぐの日本酒バー・スイミーが企画した講演会「リビセン的エリアリノベーションとこれからの高田」(2024年)

もちろん、それぞれが見出している面白さは少しずつ異なるのでしょう。ただ何にせよ、高田という街の「フレーム」が残っていたからこそ、それがよりどころとなって、それがかかわりしろとなって、 人が集まる土台になっているんだと思います。ここで言う高田の街のフレームというのが、例えば、街の歴史性であったり、 雁木通りという建築的な構造であったり、 あるいは高田世界館含め個々の施設が紡いできた求心性などが当たると思います。また、まちづくりの先行団体による継続的な活動も、潜在的につながっていると思います。

有志で企画した空き家を使った交流会は不定期で開催された(2018年)

希望がある一方で、高田にはまた別の現実もあります。居住人口は減少を続け、高齢化も進行し、空き家は年々増えています。私が住んでいる町内でも、高齢者の家庭が亡くなる度にあっという間に空き家になっていくというリアルな現場を目にしています。居住人口だけでなく、商店街や飲み屋街もかつての賑わいがなくなってから久しいです。そうした押し留めることのできない大きな流れに向かって、まちづくりにできることはあまりないのではないのか、というのは正直思っていたところではありました。だから私自身、やっているのは「局地戦」だと。大状況には寄与しないがやれることをやる。ある意味ではポジティブだし、また一方では諦念に似たようなものでもあるかもしれません。

けれど、10年という時間のなかで散発的ながら一つ、また一つと拠点が増えていくのを目にし、またそこに連動するような形で様々な動きで出ているのを見ると、そこには確かに「うねり」のようなものが生まれているのを感じます。

なぜ人がこの町に惹かれるのか。高田という街の求心性とは何かというのはいまだに掴みきれていません。人によってその理由は異なるでしょうし、高田を「落ち着いた街並み」と感じる人もいれば、「刺激的な場所」と見る人もいるかもしれません。

今後もこの町がどこへ向かっていくかはわかりません。ただ、少なくとも私自身は、高田世界館から街へと接続していく動線をこれからも保持し続けたいと思います。そして、また新たな動線を誰かが引いていく、その可能性に期待を込めながら。


8月にたてよこ書店が高田世界館で企画している講演会。
ここでも高田の未来について絵を描こうという試みが続く。https://tateyoko-2508.peatix.com/

※アイキャッチ 写真提供:たてよこ書店


高田世界館支配人 上野迪音(うえの・みちなり)
上越市出身。2014年より日本最古級の映画館「高田世界館」の運営に携わる。映画文化を地域に根付かせようと、さまざまな取り組みを行っている。
高田世界館 http://takadasekaikan.com/